フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
プルシェンコの連覇を妨害した!?
米国人ジャッジ、疑惑のEメール。
~五輪でのロビー活動の真実~
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byTakuya Sugiyama/JMPA
posted2010/02/25 08:00
共に完璧ではなかったプルシェンコとライサチェクのフリー。
この日のプルシェンコの演技と欧州選手権でのSPの演技を子細に見比べてみると、3アクセルの着氷時にエッジチェンジを入れるなど、五輪では意識的にトランジションを増やしてきたのがよく分かる。しかし結果は、欧州選手権での評価点7.55に比べて0.75も低くなっていたのだ。
SPでただひとり4回転+3回転のトウループを成功させたのにもかかわらず、3回転ルッツ+3トウループを跳んで2位だったライサチェクとプルシェンコの点差は、わずか0.55しかなかった。
そして……プルシェンコはフリーで逆転された。
その夜の彼は決してベストな演技ではなく、何度かジャンプの着氷でぐらついた。それでも4回転+3回転を成功させ、転倒も、着氷時のステップアウトなどの大きな失敗は無かった。
一方のライサチェクは迫力ある演技だったが、普段のスピードに欠けていた。技術的にも決してベストではなく、3アクセルの着氷でちょっともたつき、3フリップではエッジが正しくないという減点もされている。SP、フリーを通して4回転に一度も挑まなかったわけだが、それでもライサチェクは逆転し、王座を奪った。
あのメールさえなければ連覇を達成していたかもしれない。
インマンのメールが与えた影響は、いったいどれだけあったのかは分からない。ただ……このメール騒ぎがなければ、あるいは今回の五輪の舞台が北米でなければ、プルシェンコはおそらく五輪2連覇を果たしていただろうと、私は思う。
勝利の瞬間、喜びにひたるライサチェクの横にピタリと寄り添って座っていた女性。彼女こそメールの送り主インマンの親友にしてライサチェクの振付師ローリー・ニコルだった(コーチはまた別にいる)。ライサチェク本人は何も後ろめたいことなどしてはいない。だが、プルシェンコは、完全に北米勢にはめられたのだという印象だけは、私はどうしても拭うことができなかった。
いまだ北米社会に根強く残る「ロシア憎し」の感情。
筆者は米国に在住して20年以上がたつが、北米社会の「ロシア憎し」の感情の強さは、今でも日本人には理解しがたいほどのものだと感じることがある。対ロシアとなると、関係者と報道メディアが一丸となって「ロシアが我々よりも優れているわけはない」ということを証明しようと躍起になるのだ。
ロシアと北米勢の間のフィギュアスケート判定でひと悶着起きるのは決して偶然ではない。そして、その傾向は北米での五輪開催時にいっそう強くなる。
2002年ソルトレイクシティ五輪のペアジャッジ疑惑事件(ロシアとカナダの代表間にあった判定疑惑で新採点システムへのきっかけとなったとされている)も、「不正があった」と言われているが、その真相は明らかにされていない。「プレッシャーを受けた」と発言した当時の五輪ジャッジのいう「プレッシャー」とは具体的にどの程度のもので、どのくらい採点に影響を与えたのかは不明のままである。北米の異常なまでにヒートアップした報道に、IOCとISUが追加で金メダルをカナダ代表のペアにも授与して、その詳細も不明なままに、早々に事態を鎮める解決法を選んだのだった。