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プルシェンコの連覇を妨害した!?
米国人ジャッジ、疑惑のEメール。
~五輪でのロビー活動の真実~ 

text by

田村明子

田村明子Akiko Tamura

PROFILE

photograph byTakuya Sugiyama/JMPA

posted2010/02/25 08:00

プルシェンコの連覇を妨害した!?米国人ジャッジ、疑惑のEメール。~五輪でのロビー活動の真実~<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama/JMPA

疑惑のメールが世界中に広がり、北米メディアが煽り立てた。

 メールが送信されてから2日後となる2月5日。フランスのレキップ紙がそのメール内容をすっぱ抜き「北米のロビー活動がスタートした」というフランスのフィギュアスケート連盟会長のコメントと共に掲載したのだ。欧州のフィギュアスケート界は、騒然となった。

 だがその報道が北米へ渡ってくると、論調はインマン擁護に変わっていた。

 2月15日のUSAトゥデイでコラムニスト、クリスティ・ブレナンは、「ジャッジが、ちょっと遅いヴァレンタインデイのプレゼントとして気前よくプルシェンコに5コンポーネンツで高い点数を与えたら、彼は五輪でも優勝してしまう可能性がある。だからこそ、インマンの疑問は関係者すべてが持つべきだ」というコラムを掲載。スポーツイラストレイテッドのE.M.スウィフトは「インマンはフェアな人物である。彼はプルシェンコ本人の言葉を単に引用したに過ぎない」とまるで本人を個人的に弁護するかのような記事を載せた。ニューヨークタイムズ紙にジェレ・ロングマンが執筆したコラムにいたっては、「個人(インマン)の無垢なメールに、フランス、ロシアが過剰反応をしている。冷戦は終わったはずなのに」という、一連の報道をからかうような論調となっていた。

 私は、どの記事の中でも言及されてはいなかったが、しかし非常に重要な事実がひとつあることに気がついていた。レキップ紙の記者はおそらく知らなかっただろうが、北米のスケート関係者なら誰でも知っている重要な事実。

 “メールを送ったインマンは振付師のローリー・ニコルの親友である”ということ。

 ニコルはアメリカ出身の振付師で、現在カナダのトロント郊外に住んでいる。ミシェル・クワンの振付を担当したことでフィギュアスケート界では非常に有名になった人物である。そして彼女は、インマンと協力しあって国際スケート連盟(ISU)で現在採用されている新採点方式の内容に深くかかわった経歴を持つ。

 そして、ニコルは今季、カナダ代表のパトリック・チャンのコーチを務めるほか、アメリカ代表のエヴァン・ライサチェクなど多くの北米選手のプログラムを手がけている。

抑えられたプルシェンコのトランジションスコア。

 男子SPの日、私はメディアルームでベテランのスポーツコラムニスト、ロングマンにこう聞いた。

「あなたはNYタイムズのコラムの中で、インマンとローリー・ニコルが親友同士だということに触れていませんでしたが、それはなぜですか?」

「それは重要なことではなかったからね」

「では立場を逆にしてみましょう。メールを送ったのがロシアのジャッジで、このジャッジが、プルシェンコのコーチの親友だったとしたら、重要なファクターにはならないのでしょうか?」

「……OK。それは重要なことなのかもしれない。でもそれが何なのですか。現に、プルシェンコはこうして1位でいるのだから別にいいじゃないですか」

 この会話を交わしたのは、男子SP終了直後のことである。

 確かにプルシェンコは1位だったものの、トランジションが6.80と際立って低かった。果たしてこれは正当な採点なのか、あるいはインマンのメールの影響がいくらかあったのだろうか。

 テレビのコメンテーターとして会場で見ていた本田武史に感想を求めると、こう答えた。

「他の選手がやっていたことと比べても、プルシェンコのトランジションの点は、かなり抑えられていたという印象でした」

【次ページ】 共に完璧ではなかったプルシェンコとライサチェクのフリー。

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