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自由と強制という命題。 

text by

海老沢泰久

海老沢泰久Yasuhisa Ebisawa

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photograph byHideki Sugiyama

posted2006/10/20 00:00

自由と強制という命題。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

 今年の野球シーズンが始まる前、カープの新監督になったブラウン監督と、ファイターズで就任4年目のヒルマン監督のキャンプでの練習法のちがいを挙げて、

 「どちらの監督に吉と出るか」

 ということを書いた。

 ブラウン監督はカープのキャンプ名物だった猛練習をアメリカ式の合理的練習に変え、ピッチャーの投げ込みも、従来はキャンプ中に2500球も投げ込んでいたのを、

 「それをピッチングとはいわない。何も考えずただ投げ込んでいるだけだ」

 といって、1日10分、50球に制限した。

 それに対して、ヒルマン監督は、従来は昼すぎには終えていた全体練習を、日本式に午後3時すぎまでやるようにしたのである。それに対するヒルマン監督の答えはこうだった。「この国では多くの練習をし、投手は投げ込まなければならないということを学んだ」

 そもそも、アメリカのメジャーリーグでは、日本のような1カ月にもわたる全体練習中心のキャンプはおこなわない。トレーニングは選手が個々におこなって、2月の中旬ごろになるとその選手たちがキャンプ地に三々五々に集まり、1週間もするとオープン戦が始まって、その後はオープン戦を中心に調整がおこなわれていくのである。アメリカからやってきた外国人選手たちが、日本の野球は練習のしすぎだと必ずいうのはこのためだ。

 ブラウン監督はそのアメリカ式を採用し、ヒルマン監督は3年の経験でそれを捨てたのである。いいかえれば、ヒルマン監督のほうは、これまではアメリカ式に短時間で集中して練習し、それで足りない分は選手個人の自主性にまかせるという方法をとってきたが、結局、この国ではああしろこうしろといいながら朝から日が暮れるまで練習させなければ野球にならないというふうに考えを変えたということだ。

 そして、その結果は、ブラウン監督が相変わらずのセ・リーグ5位、ヒルマン監督がパ・リーグ優勝で、見事にヒルマン監督に吉と出たのである。

 しかも、ヒルマン監督のその野球は、ただたんに優勝したばかりでなく、去年の62勝71敗3引分けから、82勝54敗に勝利数が伸びて内容もめざましかった。

 その一大要因に、去年の54から133に増えた犠牲バントの数が挙げられている。この犠牲バントもアメリカでは好まれないもののひとつだ。監督の強制によって選手の自由な打撃機会を奪うものだからだ。それゆえ、日本でも、いわゆる管理野球を嫌う人たちにはその象徴として昔から評判がわるかった。しかし、日本では、今年のヒルマン監督の成功に見るごとく、選手の自由な打撃にまかせるより、強制的に監督の命令に従わせたほうが、しばしば大きな成功をもたらすのである。ヒルマン監督は、練習法を変えたばかりでなく、そのことも発見したということだ。

 自由と強制。野球にかぎらず、スポーツではどちらがいいか昔から論議されている一大命題だが、いつになったら結論が出るのだろう。それとも、日本にかぎれば、自由を重んじたジーコがドイツワールドカップでさんざんな目にあったように、もう結論は出ているのだろうか。

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