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グランプリシリーズ開幕戦で見えた、
浅田真央の「自分探し」の難しさ。 

text by

田村明子

田村明子Akiko Tamura

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2009/10/19 13:10

グランプリシリーズ開幕戦で見えた、浅田真央の「自分探し」の難しさ。<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

「4回転を入れることができなかったのは残念でしたけれど、それ以外ではだいたい満足しています」

 パリのベルシー体育館で開催されたGP初戦のフランス杯で、優勝した織田信成は笑顔でそう語った。

 前日のSP(ショートプログラム)では、音楽表現などを評価する「5コンポーネント(5つの演技構成要素)」全種目で7点台を確保できなかったと悔し泣きをした織田。だが新たにフリーの曲となった『チャップリン』は、表情豊かな織田の個性が存分に生かされたプログラムとなり、5コンポーネントでは無事7点台をクリア。元世界チャンピオンのブライアン・ジュベールや欧州チャンピオンのトマーシュ・ベルネルら強豪を破って見事優勝を飾った。

 一方女子では浅田真央が2位、中野友加里が3位に入賞。出場した日本選手全員がきっちりメダルを獲得し、日本チーム大活躍といいたいところだが、今一つすっきりしないものが残った。

浅田真央は本当に“楽しく”滑ることができているのか?

 その理由は、浅田真央が優勝できなかったからではない。

 織田が自分に合ったプログラムで生き生きと滑ったのに比べ、浅田の新プログラムが彼女本来の持ち味を生かしているように見えなかったからだった。

 SPは昨年のフリーをアレンジした『仮面舞踏会』である。

「新しい音楽で滑りたいという気持ちがあったのですが、タラソワ先生がしっかり私のものになっている『仮面舞踏会』をもう一度使うことを薦めたので」

 そしてフリーはラフマニノフによる『モスクワの鐘』。SPフリーともに短調のメロディで、笑顔で楽しく滑るような音楽ではない。

「あなたのフリーの音楽は重くて暗いと感じるのですが……」

 会見で米国の記者がそう質問した。

「実はもっと明るく軽い曲とこの重い曲と、二つ選択がありました。最初にこちらで滑ってみたら、自分に力強さを与えてくれるように感じました。その後もう一曲のほうで滑ったら、ちょっと軽くて気持ちが弱くなってしまうかなという気がしたのと、またタラソワ先生がこちらを薦めてくれたこともありました」

 浅田真央はこう答えた。

『モスクワの鐘』はコーチのタチアナ・タラソワが、長い間五輪の「勝負曲」として大切にとっておいた音楽なのだという。

本当の浅田真央の実力はこんなものではないはず。

 演技の内容は悪くなかった。SPでは失敗した3アクセルもコンビネーションで成功させ、いくつか回転不足などがあったものの全体を無難にまとめて総合173.99を獲得。彼女の自己ベストの201.87には遠く及ばなかったものの、総合2位で面目は保った。だが浅田真央の実力はこんなものではないはずだ。

【次ページ】 大人の選手に成長し、精神的に次のステップへ進む時期。

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