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グランプリシリーズ開幕戦で見えた、
浅田真央の「自分探し」の難しさ。 

text by

田村明子

田村明子Akiko Tamura

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2009/10/19 13:10

グランプリシリーズ開幕戦で見えた、浅田真央の「自分探し」の難しさ。<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

大人の選手に成長し、精神的に次のステップへ進む時期。

 浅田真央がシニアGP大会デビューをしたのは、今から4年前だった。年齢制限で出場できなかったトリノ五輪シーズン、15歳になりたてだった浅田はこの同じ会場で可憐な『カルメン』を楽しげに演じ、182.42を獲得して五輪優勝候補だったサーシャ・コーエン、荒川静香を破って優勝してしまった。

「この4年間、あっという間でした。4年前はこれがどんな大会かもよくわからずに、子供のころに出た海外の試合に出るようなつもりで出ちゃったんですよね」

 目の前でそう語っている真央は、もう怖いもの知らずの少女ではない。世界タイトルも手に入れて、プレッシャーに耐えながら滑ることも学んだ大人の選手に成長した。

 だがスケーターとしての今季の彼女は、自分探しで迷っているように見える。SPもフリーの音楽も、コーチに薦められた選曲を尊重して、自分で自分を納得させようと懸命に努力しているように感じるのだ。

 だがこれが今の彼女が、本当に演じたいものなのだろうか。

「楽しみながら滑る」のが高得点をとる唯一無二の秘訣。

 今回優勝したキム・ヨナは210.03という女子世界歴代最高得点をたたき出した。この大会でキムが披露したのは、『007』のSPと、ガーシュウィン『ピアノ協奏曲』のフリー。コケティッシュなボンドガールと、華やかなガーシュウィンを、キムは実に楽しみながら滑っているように見えた。この「楽しみながら滑る」というのは、実は高い5コンポーネントを得るコツである。同じ内容の滑りをしても、楽しみながら演じるほうが体も動くし、余裕ありげでうまく見える。ジャッジたちはキムに気前よく8点台のコンポーネントを与えた。

 織田の『チャップリン』といい、キムのボンドガールといい、本人が楽しむことのできるプログラムが持つ力というのは、フィギュアスケートにおいて計り知れない。もともと能力がある選手なら、プログラムが勝敗を決めると断言してもいいほど、選曲や振付は大切なものだ。

【次ページ】 エキシビションの明るく華やかな滑りこそ本来の姿かも……。

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