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ヨーロッパの新基準は、超攻撃的スタイル。 

text by

杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

PROFILE

posted2005/05/12 00:00

 51分の13。欧州の本大会出場枠は、開催国のドイツを含めてもわずか14に過ぎない。前回より1枠減。いつにもまして混沌だ。

 言わずと知れたサッカーの本場である。欧州予選のレベルは世界一高い。例えば、最後のプレーオフは本大会の16強、いやそれ以上にハイレベルな戦いが予想される。原因の一端に、我々が絡んでいることも承知しておきたい。アジアの増加枠分は、その欧州からプレゼントされたモノに他ならない。だからこそ、欧州の最終予選は面白くなってしまった。日本の犠牲になるのはどの国かという邪悪な視点を併せ持てば、より興味深く映ること請け合いだ。

 しかし、我々と彼らでは、取り巻く環境が決定的に異なる。彼らの多くはEUという枠組みに属している。同じ通貨を使用し、同じ憲法下に置かれようとしている共同体だ。欧州はそのうえ大陸という体を成すので、ボーダーレス化は進む一方だ。国対国の意識は薄れつつある。チャンピオンズリーグに代表される都市対抗戦が興隆する要因でもある。クラブまずありき。UEFAリーグランキングの上位を占めるメジャー国ほど、代表は脇に追いやられがちだ。代表選手が招集されるのは、試合の4日前。練習日は正味2日。パッと集まってサッと試合を行い、即解散。代表の活動は、強行日程の中で消化される。日常クラブで、それなりの活躍をしている選手に、モチベーションを維持し続けろというのは酷な注文だ。

 好選手を揃えながら、毎度スペイン(グループ7)が振るわない原因は、まさにそれだ。民族問題だけだとは思えない。イタリア(グループ5)にも同じことが言える。組分けに恵まれた今回の予選は、粗を目立たせずに終えるだろうが、本大会での活躍には疑問符が付く。そもそもファンの反応が鈍い。ホームの代表戦のスタンドが、満員に膨れあがることなどまずない。お腹一杯感は選手に限った話ではない。

 フランス(グループ4)に至っては、予選突破に黄信号が点っている。こちらは、多くの選手が外国のクラブでプレーしているので、当初の代表チームには、選手に再会する歓びが感じられた。新鮮さが見て取れた。しかし、彼らはあまりにも長い間、同じメンバーで頂点を維持し続けた。所属クラブでの成功がそれに輪を掛ける。ダブルでお腹一杯感を味わった。メンバーは入れ替わってきているが、そうなればそうなったで、新顔の役者不足、経験不足が露わになる。歯車は乱れた状態にある。

 イングランド(グループ6)は、スペイン、イタリア、フランスとは、いささか事情が違う。急上昇を続けるプレミアリーグの勢いが、代表チームにそのまま反映されようとしている。ランパード、ジェラード、テリー、J・コールらが、チャンピオンズリーグで自信を掴むや、お腹一杯感を味わう間もなく目の前に2006年が現れた。4年に一度の波長と日常の戦いの波長とが見事にマッチした状態にある。

 いっぽう、オランダ(グループ1)の強みは、サッカーでしくじると、単なる小国と化す現実を、オランダ人自らが自覚している点にある。人口わずか1600万人。小国の危機感というヤツだ。小さいが故にまとまりは良い。

(以下、Number627号へ)

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