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鎌田圭司 球界最小ガテン系ルーキー。 

text by

渕貴之

渕貴之Takayuki Fuchi

PROFILE

posted2005/03/03 00:52

 背負った番号が不自然なくらい大きく見える。162㎝。現役選手最小のルーキー鎌田圭司は、キャンプ地、北谷のグラウンドで土にまみれ、大粒の汗を浮かべて、さみだれにノックを受けていた。

 「まだ、プロの世界が分かんないです。何をやればいいか考えながら、できることをやっていくしかないですよね」

 山伏を思わせる鋭い眼光と、それを強調するかのごとく蓄えられた顎鬚。10年選手の風情を湛える表情には似つかわしくない、ルーキーらしい素直な言葉を口にする。社会人トヨタを経てのプロ入りとはいえ、まだ右も左も分からぬ世界で、本人曰く「いっぱいいっぱい」。キャンプ・イン僅か1クールで、ベルト穴一コマ分を切ったという。それほどに必死なのだ。

 豊田大谷高校時代から一貫してショートを守ってきた。しかし、当時はさほどこだわりを持っていなかった。今はどうかと問えば、「やりたいと思ってるんだから、こだわりはあるんでしょうね」と、どこか他人事のような言い方をする。闇雲な負けず嫌いかと思いきや、その言葉には続きがあった。

 「今はそれよりもプロで一軍に定着することが大事。ショートだけしかできないなんて言ってられない。たとえば外野やれと言われれば外野の練習しますよ」

 リーグ一と称される、荒木・井端の二遊間を擁する中日で、ルーキーが挑む壁はいかにも高い。それを意識してか、何年も守ってきたポジションへの愛着を捨ててまで、一軍に生き残るのだという強烈な意思表明だ。

 弱肉強食の世界を生き抜く武器は守備と足。

 「しっかり守れて、代走でもスピードを生かせるプレーヤーとして使われたい」

 ポジションにはこだわらない男でも、スピードに対するこだわりは昔から強かった。

 「この身体でスピードがなかったら、プロ入りすることもなかったでしょう。身体づくりもパワーじゃなく、スピードを重視してきました」

 ベスト体重64㎏の肉体は、50mを5秒8で駆ける。ユニフォームの上からでもはっきり分かる筋肉の盛り上がりは、短距離スプリンターのそれに近い。父は野球、母はバスケットボールの選手だったからか、生まれつき筋肉質だったとは言うものの、体脂肪率8%という肉体は、一朝一夕に得られるものではない。何かしらの強靭な意志の下、たとえば小さい身体のハンデを補うためにつくりあげたのかと、記者は勝手なストーリーを思い浮かべたが、事実はそうではないらしい。

 「大学に入ったとき、不祥事があって監督不在だったんです。練習は選手がメニューを決めてやっていた。だからタラタラじゃあないですけど、バッティングやってノックやって終わり、みたいな。それじゃまずいから、同期の連中3人くらいと、何となくウェイトでもやろうかと。巧くなるわけじゃないけど、鍛えた方がいいことあるかな、くらいの気持ちで(笑)。高校時代にもやったけど、本格的に取り組んだのはそれからですね」

 指導者のいない名城大学硬式野球部で、なんとはなしにウェイトをやった。それが端緒となり身体への意識に目覚めた鎌田だが、鍛えてついた筋肉で体重が増え、スピードが鈍ることはなかったのか。

(以下、Number622号へ)

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