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カカ 「歴史に名を刻むまで」 

text by

藤原清美

藤原清美Kiyomi Fujiwara

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posted2006/11/19 22:38

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[ロングインタビュー]カカ 「歴史に名を刻むまで」

藤原清美=文

text by Kiyomi Fujiwara

 カカはここまで、猛スピードで成功への階段を駆け上ってきた。'02年に、弱冠20歳でワールドカップに初出場。 '03年には将来を期待されてACミランに移籍し、わずか1カ月でレギュラーの座を勝ち取った。同じ頃、セレソンでも欠くことのできない主力のひとりとなっていった。

 だが、満を持して迎えたはずのドイツワールドカップで、優勝候補筆頭だったブラジルは準々決勝でドイツを去った。

 カカ個人は、ブラジルで厳しい批判を受けたわけではない。むしろ、期待はずれに終わったカルテットの中で唯一闘志あふれるプレーを見せ、最後まで戦った選手だと言われた。

 それでもサッカーでは、すべてが結果で評価される。ワールドカップ後に就任したセレソンの新監督ドゥンガは、こう言う。

 「ワールドカップのメンバーは、まずはサポーターの信頼を回復し、ゼロから自分のポジションを取り戻すために頑張って欲しい」

 一方、イタリアサッカー界を揺るがせた不正問題により、所属するミランはセリエAに残留したものの、勝ち点マイナス8という状況から戦いを始めることとなった。

 ここまで成功の真っ只中にいたカカに、セレソンで、そしてクラブで容赦なく襲い掛かった様々な困難。リスタートをはじめようとしているカカを、ミラノに訪ねた。

──ワールドカップでは、何が大きな問題だったと考えている?

 「試合が終わった直後は、僕はやれるだけのことをやったのに、と思った。なのになぜ、もっとうまくいかなかったんだろうってね。あの時は、自分一人だけでもどうにかしなくてはと、頭が熱くなっていたのかもしれない。試合は一人でやるものじゃないのにね」

──国民やメディアは、“闘志が欠けていた”と、選手達のメンタリティを批判しました。

 「選手はいつでも、最高のモチベーションで試合に臨むものだ。ピッチに入れば、何が何でもベストを尽くす。倒れる寸前まで走り抜くけれど、間違った走り方をすることだってある。間違っているのに、そのまま走り続けると、結局はいくら頑張っても求めている結果には結びつかない……今回は、そういうことだったと僕は思っているんだ」

──敗退したフランス戦は?

 「あの試合で、フランスは僕らよりもいいプレーをしていた。勝利に値する素晴らしさだったよ。特にジダンは僕にとって、世界の歴代ベストイレブンに選びたいほどの選手なんだけど、あの試合は彼の中でも、代表チームでのベストゲームの一つじゃないかと思えるほど良かった。また、例えば守備にしても、フランスにはマークで不注意な瞬間が全くなかった。スキがなかった。そのため、僕らは自分達のリズムに持っていくことができず、ブラジルサッカーが持っているはずのクリエイティビティを発揮できなかった。試合中にその理由がわかれば、もちろんピッチの中で解決したよ。でも、その余裕が僕にはなかった。今なら落ち着いて分析できるし、細かい部分で、ああしていれば、と反省することもできる。そして経験に変えていかないと」

──ドゥンガを新監督に迎えた新しいセレソンはどうですか。

 「すごく良い雰囲気だよ。特に新しく招集された選手は、モチベーションも高くて意欲的だ。代表のキャリアがない選手も、当然セレソンとして歴史を築きたいと思っている。まだ時間はかかるだろうけど、多くを成し遂げられるチームだと思うよ」

──ドゥンガ監督の印象は?

 「素晴らしい人間だね。彼が監督に就任してはじめにやったのは、選手と話すことだった。“僕の仕事はこうだ。こんなふうにやりたい”ってね。それに自分の意見を言った後は、選手の考えも聞いてくれる。だから、第一印象はとても良かった」

──遠征中はよくドゥンガと話し込んでいましたね。特に9月に行われたウェールズ戦の前日練習では、長い時間話していたように見えたけど。

 「いろんなことを話したよ。彼がどこでどんなプレーをしてきたか。イタリアのクラブにいた時はどうだったか。個人的なことも少しね。でも、ほとんどは技術的な話。セレソンでどうするのが僕にとってやりやすいか、ワールドカップ中に僕がチームについてどう感じ、セレソンに何が起こっていたのか、ピッチの上でのポジティブな面も、ネガティブな面もね」

──ドゥンガが言っていたのは、カカは試合中、次の展開を予測できる選手だということ。自分の役割については、どんな指示を受けた?

 「これまでやってきたことを、そのままやればいいと言ってくれた。その上で、こういう場面では完全に自由にやっていいとか、こういう場面では守備にも戻って欲しいとかね」

──新生セレソンには、2試合目の親善試合となったアルゼンチン戦で初招集されて、後半に素晴らしいゴールを決めました。

 「あれは僕のサッカー人生の中でも指折りの、ファンタスティックなゴールだった。ベンチスタートだったけれど、ピッチに入って2点目をアシストできて、その後にあのチャンスがきたんだ。僕とメッシが近い位置にいた時に、メッシがボールをキープし損ねた。その向こうには2人のセンターバックがいたんだけど、まずは最初の一歩で抜け出せるようにやってみようと思って、メッシには競り勝った。それならゴールを決めてやるぞって、次に2人のセンターバックを抜いた。一瞬で考えたことが、すべて実現したゴールだった」

──その後にあったクウェート選抜戦は、ロナウジーニョがスタメンとして出場し、カカは彼と交代の途中出場でした。カカとロナウジーニョのポジション争いが始まったと、メディアは盛り上がりましたね。

 「個人的にはロナウジーニョとポジションを争うことは残念だけど、僕は攻撃的MFやFWの全員と攻撃的な1枠を争っていると思っているんだ。ロナウジーニョ、ロビーニョ、ラファエル・ソビス、フレジたちを相手にね。それに強いチームになるためには、ポジション争いは普通のことだ。でも基本的に、ロナウジーニョはポジション争いの相手だとは思ってはいない。もちろん、オプションとしてふたりが同じポジションをやることはあり得るけど、得意な位置を考えると、彼がライバルになるとは思わない」

(以下、Number665号へ)

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