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3人を失ったバルサを救う神。 

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鈴井智彦

鈴井智彦Tomohiko Suzui

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photograph byTomohiko Suzui

posted2006/11/16 00:00

3人を失ったバルサを救う神。<Number Web> photograph by Tomohiko Suzui

 子どものころ、サビオラとダレッサンドロはいつも一緒だった。リーベルでもアルゼンチン代表でも、彼らはともに過ごしてきた。夏休みの旅行も家族ぐるみで遊んでいたという。

 いまよりも待遇の良い環境に旅立つことは可能だったサビオラがバルセロナに残ったのも、もしかすると親友の影響かもしれない。今季開幕前、ダレッサンドロはドイツのウォルフスブルグからサラゴサに移籍してきた。バルセロナとサラゴサは電車で3時間半。彼らの高級車を飛ばせば、2時間で会える距離だ。しかも、サラゴサにはミリート兄弟にアイマールといったアルゼンチン人もいる。

 「8歳のときに知り合ってから、ずっと友だち。子どものころなんかは、彼がボクの家に泊まりに来たこともあれば、ボクも何度も彼の家に行った仲。親友さ」とサビオラ。たとえ控えでも、12月の移籍マーケットでバルサを去る気はまったくないようだ。

 その2人が対戦した11月12日のバルサvs.サラゴサ。67分にサビオラが投入された1分後にダレッサンドロはピッチを退いたが、彼ら親友にとっては幸いだったかもしれない。というのも、このゲームは荒れに荒れたからだ。赤黄合わせて12枚のカードが乱れ飛んだ。おまけにメッシが骨折、サビオラも負傷。カンプ・ノウにあれほど憎悪の空気が流れたのは久しぶりのことだった。

 サラゴサは前半からバルサの中盤を潰しにかかった。この辺りは、チェルシーの戦い方に学んだのだろう。数分刻みで、笛が鳴る。

 22分、メッシが左足の小指骨折。交代。全治3カ月。28分、エジミウソンがくるぶし負傷。交代。全治10日。トドメの3点目を決めたサビオラも、実は左足に全治4〜6週間の傷を負いながら走っていた。来年の2月まで復帰の見込みがないエトーも含めて、4選手がピッチから遠のいた。残り2試合を勝たなければ決勝ラウンドに進めないチャンピオンズ・リーグの道のりは、さらに険しくなった。

 さらにスタジアムの怒号に拍車をかけたのは、線審を務めたラファ・ゲレーロだ。75分、バルサのモッタが退場。ラファ線審の目の前で起きたモッタとディエゴ・ミリートの小競り合いは、スロービデオで見ると1発退場にはほど遠いファウルだった。背後からプレッシャーをかけてきたディエゴ・ミリートの顔をモッタが手で払いのけただけ。角度が悪く、ヒジ打ちに見えたのかもしれないが……。バルサの選手に囲まれるラファ。「フットボールをわかってないだろ」と突っ込まれ、涙目。判定が変わらないよう、サラゴサの選手がラファの助けに入ると、事態はエスカレート。フアンフランにどつかれて、ぶち切れたニースケンスも退場。ほぼ乱闘寸前。第2コーチのナバルも退場。懸命に選手を抑えるライカールト。

 ラファ線審の判断ミスは、いまにはじまったことではない。過去の誤審で有名になり、CMに出た経験もある。10年前にも同カードで「ペナルティ+退場」というミス・ジャッジを犯していた。カンプ・ノウに「来てはいけない人」リストがあるとすれば、彼のリスト入りはこの夜決定した。レアル・マドリーにカネで釣られたフィーゴ、元バルサの通訳兼コーチだったのにチェルシーの監督になったとたんに嫌味を連発するモウリーニョに続いて……。

 残り時間は15分。スコアは1対1。引き分けでは首位に返り咲けない。バルサは雰囲気とボール支配率で優位に立っても、ペナルティエリア内に侵入できない。メッシ、エトーを欠いた攻撃陣では、なかなか活路を見出せない。ラーションを再び呼び戻す声が出るのも、わからんではない。

 しかも、このところのロナウジーニョはコンディション不足をマスコミから叩かれ続けて、ひとりフィジカル・トレーニングにいそしんでいた。彼自身も「まだ、100パーセントではない」ことを認めている。ロニーひとりで崩せるほど、サラゴサ守備網も甘くはない。

 守備の要であるガビ・ミリートを赤紙で失うと、サラゴサは自陣ゴール前を人海戦術で固めた。嗚呼、時間がない。バルサがゴールを生む唯一の可能性は、ひとつに絞られていった。

 ロナウジーニョは、わかっていた。セットプレーだ、と。

 86分、左45度のフリーキック。GKセサールの存在は無意味だった。4枚の壁をあざ笑い、ボールはゴールに突き刺さる。ロナウジーニョは狂ったように叫び、ライカールトに飛びかかった。サビオラが決めた96分のゴールも、バーを直撃したロナウジーニョのフリーキックから生まれた。

 この大混乱の夜、バルサを救ったロナウジーニョは「DIOS(神)」と呼ばれたのである。

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