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“鉄人王者”を陥落させたレスナーの実力は本物か。 

text by

髙阪剛

髙阪剛Tsuyoshi Kosaka

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photograph bySusumu Nagao

posted2008/12/04 00:00

“鉄人王者”を陥落させたレスナーの実力は本物か。<Number Web> photograph by Susumu Nagao

 『UFC91』(11月15日・米国ラスベガス)でヘビー級王者ランディ・クートゥアーが防衛に失敗した。2R、挑戦者ブロック・レスナーの右ストレートがクートゥアーの左後頭部をとらえ、前のめりに崩れ落ちたところへ鉄槌を連打。“鉄人王者”まさかのKO負けに、UFCファンは衝撃を受けたに違いない。

 一時UFCを離脱していたクートゥアーにとっては、1年3カ月ぶりという長いブランクに加え、14歳という年齢差、20kgもの体重差と悪条件が揃っていたこの一戦。クートゥアーと対戦経験もある“世界のTK”高阪剛はどう見たのか。

 「45歳という年齢とは思えないほどクートゥアーのコンディションは良かったように思いました。どんな試合でも最高のコンディションにもっていくのは本当にすごい。オクタゴンに入ってからの顔つきも以前戦っていたころと変わらなかった。また1R、テイクダウンを取られて、その後絶妙なタイミングで相手のスペースを利用して立ち上がる場面がありましたけど、その瞬間を逃せばすぐに潰されてしまう1、2秒の間にやるべき動作ができていたことは、クートゥアーの感覚が鈍っていなかったということです」

 打撃の打ち合いにしてもクートゥアーが技術的には勝っていた。ただ、レスナーの体格を生かした圧力によって、クートゥアーが有効打を出すのに間合いが上手く取れなくなってしまうことが何度かあった。

 「下手に距離を取ればリーチの長いストレートが伸びてくる。中に入っても、レスナーはひざ蹴りを繰り出し、脇を差してテイクダウンを取ろうとする。巨大な体格にもかかわらずスピードもあるレスナーは、ヘビー級の選手として非常に試合がやりにくい相手。豊富な経験から体が動いてくれることを頼りとするクートゥアーにとっても、上手く合わせられない部分が見られた。クートゥアーの体の中の記憶にあのサイズの人間があそこまで動けるというのがなかったということでしょうね」

 元WWEのトップレスラーであるレスナーは、総合ではまだ4戦目。底の見えないところがあったが、総合格闘技の選手としての資質を今回見ることができた。

 「レスナーの強さは、今回クートゥアーを一発で仕留めたようなパンチを含めたスタンドにあります。はっきり言って技術は粗いですよ。ディフェンスの対処の仕方もまだ甘い。だけど、206cmという驚異的なリーチがカバーする範囲は広いし、離れた距離から踏み込んでいくスピードもある。ジャブやショートのアッパーといったひとつひとつの動きはきちんとできているので、一発一発を最後のフィニッシュブローにつなげていくことができるようになればさらに化け物になるでしょうね」

 クートゥアーは勝つための試合もできた。内容はつまらなくなったとしても、敗れずにすんだはずだ。

 「でも、彼は真っ向勝負を挑んだ。王者が自らをさらけ出すような戦い方をしたことで、レスナーの強さや可能性、課題までも引き出した試合でした。勝ち負けや完成度の高い低いではなく、生きた試合。これこそがクートゥアーの魅力だし、UFCで最も敬愛され続ける理由です」

 試合後、クートゥアーは引退を否定し、「今回反省すべきところは分かっている」との言葉を残した。

 「まだ上を目指していることの証拠でしょう。彼は納得できないことが自分の中に残っている限りは戦い続けます。大したオヤジですよ(笑)」

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