古馬最高の栄誉をかけて、という重い言葉が前に置かれて紹介されるレースは天皇賞だけ。かつては昭和天皇の誕生日に強くこだわり、曜日よりも4月29日を最優先して開催されたものだ。勝った馬は文字通りの「勇退」となり、二度と天皇賞への出走は許されないという独特のルールも'80年まで存在していたし、表彰式では賞を受け取る側が自ら台を下り、敬意の象徴として白い手袋を着用したうえで天皇盾を賜るしきたりは今も続いている。年配者は特に名誉を感じるもののようで、この日だけは正装に威儀をただす関係者の姿も少なくない。
しかし「天皇賞(春)」のレースとしての人気は、残念ながら著しく下降している。もともとは春も秋も3200mで行われていたものが、サラブレッドのスピードアップに適応する意味で秋のそれのみが2000mに短縮され、春は伝統を守る形とされた。これに対してはいまでも賛否両論あるのだが、現実として出走させる側がこの長過ぎる距離を嫌う傾向が見えているのは否定できない。今年を例にとれば、ダービー馬ディープスカイが安田記念から宝塚記念へ向かうローテーションを選択したのがそれだし、年度代表馬ウオッカだって、春天が2000mだったらドバイへは向かわなかっただろう。3200mというのは、馬を生産する側がそれを目的として配合を考えていないいまの時代においては、かなり不自然なカテゴリーという気がするのだ。
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photograph by Yoko Kunihiro