春場所の白鵬は、15日間とおして呆れ返るほどの強さだった。この完璧なリベンジ劇は、初場所優勝決定戦で朝青龍に黒星をつけられた直後の支度部屋から始まった。歯ぎしりが聞こえそうな表情。長い風呂から出てきても天井の一点を凝視し、ようやく数分後、腹の底からしぼり出した声で語った敗因は「差し負け・経験不足・落とし穴」の3点だった。白鵬は敗因を単純、明確にし、ピンポイントで稽古に取り組んだ。
「絶対の型」「後の先」、そして猛稽古
差し負けの克服には、「絶対の型」を追求した。これまで白鵬は相撲の流れを大切にし、あまり右四つにこだわらなかった。しかし、鋭い踏み込みから瞬時に右四つになり、左上手を引きつけ右下手を大きく返しながら、左足の方から切り返し気味に怒涛の寄りを見せるようになった。通常は上手から下手の方に寄るのだが、懐が広く格段の実力を持つ白鵬ならではの盤石の寄り身である。この形で攻められると、相手は土俵際では棒立ちになり無抵抗にならざるを得ない。今場所活躍した新鋭・豪栄道や栃煌山も為す術なく土俵を割ったのはこのためである。
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photograph by JMPA