GKのコーチング、すなわち、後方から味方へ指示を出すことが重要なのは、机の上では分かっていた。だが、実際の(例えば、J1クラスの)試合では、GKの声がスタンドまで聞こえてくることはほとんどない。だから、現実には、「遅らせろ!」「縦切れ!」などの定型フレーズを状況ごとに使い分けている程度、と高を括っていた。失礼ながら。
目から鱗、とはこのことである。
ガーナ戦を控えた、日本代表の練習をスタンドから眺めていたときのことだ。一際、ピッチによく響く声が聞こえてきた。声の主は、GK山岸範宏である。
単純に声が大きかったこともある。確かに、誰よりも大きく、よく通る声ではあった。だが、その声が印象深く耳に残ったのは、実にきめの細かい、具体的なコーチングだったからだ。優れたパサーを「ピッチを俯瞰しているよう」などと形容することがあるが、山岸もまた、それができているかのようだった。
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photograph by Takuya Sugiyama