中日の上林誠知は「あの日」のことを鮮明に覚えている。3月4日。春季キャンプを終え、実戦の機会を増やすために一時的な二軍合流を首脳陣から指示されていた。静岡遠征を終え、迎えたナゴヤ球場での広島戦は降雨中止。隣接する屋内練習場で体を動かした。
「手首の感覚ですね。左手です。つかんだというより、思い出したという方が近いと思います。(直後の)札幌(エスコンフィールド)から一軍に合流したんですが、練習から違いました。そこからはずっといいですね」
日付や状況を記憶するのは「脳」だが、本当に大切なのは「筋肉」や「関節」の記憶である。何気ない練習から、上林の復活物語は始まった。
9月3日終了時点で打率.279、15本塁打はいずれもチームトップにしてセ・リーグ4位。そして27盗塁はキャリアハイであり、阪神の近本光司と並ぶリーグトップだ。打って、走って、守れる。今のドラゴンズでは、最も5ツールをそろえているプレーヤーといえる。30歳。その活躍を、上林は「試合に出続ければ普通かなと思う」と言う。こちらも「復活」と書いたのは、輝いていた時期がかつてあったからだ。ソフトバンクに在籍していた2018年に、全試合に出場し、22本塁打。14三塁打は平成の最多記録である。その前年には第1回アジアプロ野球チャンピオンシップの日本代表に選ばれ、延長タイブレークとなった韓国戦の10回に、起死回生の同点3ラン。次代の中核として、フル代表選出を有力視されていた。
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