一瞬、顔が強張ったように感じた。
「可能性はゼロではないと思っていました。ある程度の準備、心構えというのはしていたし、試合前には(先発で)来るかもしれないという情報も伝わってきていた。でも、メンバー交換して改めて、名前を見たときには『来たか!』と。ちょっと武者震いのようなものを感じましたね」
2009年の日本シリーズ第2戦。試合前のメンバー交換を終えた瞬間の思いを、巨人の監督・原辰徳はこう振り返った。
日本ハムの監督・梨田昌孝と交換したスターティングオーダーに記されていた投手の名前は「ダルビッシュ有」だった。
「正直言って投げて欲しいとは思っていましたが、私も投げられるとは思っていなかった。最終的に(先発を)決めたのは、確か日本シリーズが始まる1日か2日前だったと思います」
こう語って梨田は記憶を手繰り寄せた。
本人が投げると言うまで、絶対に投げさせないと決めていた。
この年のダルビッシュはワールド・ベースボール・クラシックから帰国後、間もない4月3日の開幕戦に先発して黒星を喫したが、前半戦は12勝3敗、防御率1.31の好成績で折り返した。ところがオールスター戦で打球が右肩を直撃。8月22日には右肩の違和感で登録抹消されるなど、後半戦は故障に苦しむシーズンとなった。9月には戦線に復帰したものの、今度は左臀部を痛めて、9月20日のオリックス戦では5回で7四球を与えてKO降板した。
「確か直後の福岡遠征だったと思います。本人が監督室に来て『もう投げられない』と言ってきた。それで登録を抹消しました。その時に将来のこともあるし、本人が投げると言ってくるまで、絶対に投げさせるのはやめようと決めていたんですね」
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