曲が終わり、フィニッシュのポーズ。そのとき、天を仰ぐ眼差しは、何かを見据えるような、にらむような、射抜くような鋭さをたたえていた。
3月23日、世界フィギュアスケート選手権男子フリー。ショートプログラム3位で迎えたこの日、羽生結弦が見せたのは、全霊をかけた、というほかない演技だった。
そして今大会は、自身の立ち位置と進むべき道を再確認した時間でもあった。
SPのジャンプ失敗に「頭が真っ白になった」。
熱狂。興奮。感動……。世界選手権の期間中、さいたまスーパーアリーナの内外を取り巻く空気は、まぎれもなく羽生の存在に左右されていた。公式練習から席は埋め尽くされ、周辺のカフェではファンが羽生について熱心に語り合う光景があった。
それも無理はない。
この試合は、日本で2年ぶりにリンクに上がる場でもあった。一昨年のNHK杯は公式練習での負傷により棄権しているから、試合での姿は2017年4月までさかのぼることになる。しかも昨年11月のロシア杯で右足首を負傷して以来、久々の実戦でもある。
3月18日の公式練習初日に姿を見せなかった羽生はその翌日、開放されている1階を埋め尽くす約3000人の観客を前に、ついにリンクに姿を現した。ときに笑顔も見せつつ、落ち着きも感じられた練習のあと、羽生は懸念されていた右足首について「問題ない」と語った。
その後の言葉には、あふれんばかりの闘志があった。
「試合に出れない、観ているだけの時期はものすごく辛く、油はあるし火もあるんだけど、なんかちっちゃい部屋の中でずっと燃えているような感じでした。こうやって試合の会場に来て、今は本当に大きな箱の中で光って暴れ回る炎になれていると思っています。勝つということはいちばん大切なものだと思いますし、競技者としていちばん持っていなきゃいけないものだと思っているんですけど、ただ相手に勝つだけじゃなく、自分に勝ったうえで、自分のこのすごく煮えたぎっている、勝ちたいっていう欲求に対してすごく素直に勝ちをとりたいと思っています」
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