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「他者を思いやる人でありたい」羽生結弦、コロナ禍での大会出場への葛藤と新たな気づき<2021年国別対抗戦を終えて>
コロナ禍と向き合いながら出場した世界選手権。決して万全のコンディションとは言えない中で、銅メダルと北京五輪出場枠3枠の獲得を果たして、羽生結弦は大会を終えた。
試合が終わった明くる日の3月28日、エキシビションで『花は咲く』を情感を込めて演じた羽生結弦は、その翌日、開催地のスウェーデン・ストックホルムを離れ、帰国の途についた。機内で目に入る人の姿は、ない、と言っていいほどだった。
搭乗機が日本に到着する。降り立った空港にも人影は少なく、がらんとしていた。「真っ暗だ」と思った。検査を受け入国手続きに進む。そのさなか、強い思いが湧き起こった。
「職のふつうのあり方がなくなっている方々、こういう状況の中で苦しんでいる方々、大会を開催してくれたり運営していただいたり、みんな、本当に大変なことを痛感しました」
機内や空港で目にした光景に、そう思わずにいられなかった。
さらに、空港で世話になったスタッフからかけられたこんな言葉が、そこに重なった。
「おめでとうとは言えなかったけれど、勇気をもらいました。演技に力がもらえました」
自粛することが大切、感染を広げない、感染を広げる人の移動のきっかけに自分はなってはいけないと考え、GPシリーズを欠場した。その気持ちに変わりはない。でも――。
「自分が身を寄せることによって、人々の、何かしらの力になれるんじゃないか」
そのとき心は固まった。羽生は言う。
「複雑な気持ちはありますけど、(感染への配慮、力になりたいという思いの)両方とも持ったうえで、出てもいいのかなと思って、今回は決意しました」
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