重圧と対峙した日々の果てに待っていた、W杯でのPK失敗。悪夢にはじまった苦境から彼を救ったのは、かつての恩師との再会。甦った感覚と新たな背番号でリスタートを切ったその表情は、晴れやかだった。
PK戦後の取材は、難しい。W杯で、日本が負けたともなればなおさらだ。PKを失敗した選手、止められなかった守護神はどん底の精神状態。そんな彼らにどう質問するべきか。攻守のキーマンに、120分間の内容についても話を聞きたい。この試合で代表引退の可能性があるベテランの声も必要だ。各メディアは、頭をフル回転させて取材の作戦を組み立てる。
あの日、カタール・アルジャヌーブスタジアムのミックスゾーンは、そんな記者たちでごった返していた。部屋自体は広いものの、テレビとペンで取材エリアが分けられ、ペン記者たちはわずかな空間に押し込まれた。テレビカメラの前で選手たちが語る言葉を拾おうとすれば、すぐにしかめっ面の大会関係者が立ちはだかった。
テレビ取材を終えた選手たちが、ようやくこちらに姿を現した。権田修一を筆頭に、三笘薫、ルカ・モドリッチも来た。すぐさま何重もの人垣ができる。その隙間から、各国の記者が腕の筋肉をぷるぷる振るわせながら、懸命に柵の向こうへICレコーダーを突き出していた。
日本の背番号10は、そんな喧騒から逃げるように立ち去った。顔を下に向けて、オーラを消して、早足で。記者に呼びかけられても、足を止めず。日本代表戦に限れば、彼が無言のままミックスゾーンを通過するのは初めてのことだった。
「あのときばかりは……周りやメディアのみなさんのことよりも、自分の感情を優先しないと、心が持たないような感覚でした」
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photograph by Eri Kawamura