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[現地レポート]カタールW杯という不穏な蜃気楼

2022/12/24
招致スキャンダル、性差別、外国人労働者の待遇。幾多の問題を抱えたまま閉幕した中東初の大会は、W杯に、そしてサッカー界に何を残したのか――。スポーツを取り巻く政治や社会情勢を取材してきた英国人記者が、この“異様”な祭典を振り返る。

 11月21日、ハリファ国際スタジアムにいた僕は、場内が異様な雰囲気に包まれているのに気が付いた。理由はW杯カタール大会がついに幕を開けたからでも、注目株のイングランド代表が登場するからでもない。対戦相手となるイランの選手たちが、国歌を斉唱するのか否かが、世界中のメディアから注目されていたからだ。

 大会開幕2カ月前、イランではクルド人女性のマフサ・アミニが、イスラム教の戒律に反して髪を覆っていないという理由だけで連行され、死亡する事件が起きる。これが引き金となり、彼の地では大規模な反政府デモが勃発。選手たちにはそれでも国家に忠誠を誓うのか、あるいは国歌斉唱を拒否して、現政権に抗議の意を示すのかという難しい選択が突きつけられていた。 

 試合の中身ではなく、国歌斉唱の場面が最大のクライマックスになる。こんな状況はきわめて異例だが、象徴的だったとも言えるかもしれない。カタール大会は何から何まで異例尽くめだった。 

 そもそもカタール開催が決まったのは2010年に遡る。その際には、2018年大会と共に開催地が選考される前例のない措置が取られたし、舞台裏ではスポーツ界だけではなく、政界や財界まで巻き込んだ虚々実々の駆け引きがなされ、莫大な額の札束が飛び交ったとされている。

 大会関係者は招致スキャンダルを頑として否定してきたが、表立った金の流れだけを捉えても、常識はずれな大会になったのは明らかだ。スタジアムやホテル、高速道路を造り、古いインフラを改修し、地下鉄まで敷設する。砂漠の中で都市国家を再生させるが如き試みには、少なくとも2500億ドル、実際にはそれ以上が費やされたというのが定説になっている。

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