ノニト・ドネアをわずか2ラウンドで返り討ちにし、これでプロ23戦のうち20戦でKO勝ちとなった。井上尚弥の圧倒的な攻撃力に注目が集まるのは自然なことだろう。
一方で、アマチュア時代の81戦を加えてなおダウン経験はゼロ。実は、卓越した防御技術の持ち主でもあるのだ。
元WBA世界スーパーフェザー級王者の内山高志は言う。
「顔が腫れたのを見たことがないし、目の上を切ったのもドネアとの1戦目ぐらい。相手はパンチが当たらないとなると頭から突っ込んできて、バッティングが起きたりもする。それすらさせないところが井上のすごさですよね」
内山によれば「ディフェンスはボクシングの中でいちばん大事」。倒されないための防御術を理解するには、幾重もの“壁”をイメージするとよいという。
第一の“壁”となるのが距離感。より具体的にいえば、自分が最も戦いやすい距離を保つ能力である。
「打ってきた瞬間に半歩、すっと体を引く。相手からすれば、ずっと遠い感覚のままになります。いろんなボクサーの試合を見ていて『もっと手を出せよ』って思うことがありますけど、『いま打っても当たらない』という感覚に囚われるとパンチが出ないもの。相手にそう思わせられるのが、強い選手なんです。そもそも井上の場合はパンチ力がありますから、簡単には入っていけない。自分の間合いを保てる選手はクリンチも少ないですね。井上がまさにそうです」
井上は昨年2月、チャリティーイベント『LEGEND』において、元WBC世界フライ級王者の比嘉大吾と戦った。スパーリング形式ではあったが、デビューから15戦連続KO勝利の日本タイ記録を持つ比嘉に対して、井上はあえてガードを下げて顔を前に出し、比嘉にパンチを打たせる場面を何度かつくった。その姿を思い返し、内山は感嘆の息を漏らす。
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