SPでのジャンプ失敗が響き、まさかの5位に終わった平昌五輪から4年。世界選手権3連覇中の絶対王者は、2度目の大舞台で見事に雪辱を果たした。重圧を跳ね除けて見せた圧巻の演技の真実を、本人とコーチの言葉で解き明かす。
ネイサン・チェンがリンクの中央に出てきたとき、彼のゆとりのある表情を見てこれはいくな、と直感した。
2日前のSP『ラ・ボエーム』では団体戦でのSPに続いてノーミスで滑り切り、113.97で世界最高得点を更新。SPで大失敗をした2018年平昌オリンピックから4年間、心の中に抱えてきた悔しい記憶を、世界新のスコアで上書きした。
フリーの『ロケットマン』の衣装を身に着けたチェンの全身は自信に満ち溢れ、オレンジ色のコスチュームから発するオーラがリンク全体を照らしているかのようだった。
「どの大会でも緊張はします。もちろんここでも緊張はしていました。でもSP前の緊張に比べたら、それほどでもなかったです」と演技後に語った。フリーではかねてから宣言していた通り5本の4回転に挑んだ。
4回転フリップ+3回転トウループ、4回転フリップ、4回転サルコウではわずかに着氷が前のめりになるが、堪える。そして4回転ルッツ。後半の4回転トウループ+1回転オイラーの後に予定していた3回転フリップが1回転になったのが、唯一ミスらしいミスだった。全てのジャンプを跳び終えると、これまで見せたことのないやんちゃな笑顔で、ヒップホップのコレオシークエンスを滑り終えた。滑り終わった瞬間、「やった!」というように頭をそらせて目をぎゅっと閉じた後、自分の気持ちを落ち着かせるかのように何度も両手で頭を押さえた。過去4年間、どの大会で勝っても淡々とした態度を貫いてきたチェンだったが、これまでずっと抑えてきた感情が、一気にこみ上げて来たかのようだった。
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photograph by Asami Enomoto/JMPA