不運に見舞われたSPからの逆転を懸けて、足首の故障を抱えながら4回転半の大技に挑んだ。五輪の舞台で見せた勇姿に捧げる、盟友たちのエール。
体操で自身の名が付く新技を6つも生み出してきた白井健三。未知の領域への挑戦を知る者として、羽生結弦の歩む日々を、真摯なまなざしで見つめていた。
「現地入りしてからの羽生選手の発言を聞いて、やらないという考えは全くない強い意志を感じました。僕が勝手に感じていたことですが、羽生選手はソチ五輪や平昌五輪と同じ内容の演技で勝つだけでは満足できない。『自分が心から満たされるプログラムは何だろう』と素直になった時に、4回転アクセルを入れた演技に辿り着いたのだろうと思って見ていました」
3連覇のタイトルもかかる中、羽生はリスクの高い大技に怯まなかった。
「僕の場合は3度目の金がかかる世界選手権で、一番難しい『シライ3』を成功させ優勝しました。その時は『白井健三の床を見てくれ』という気持ちが大きかったです。『勝ちという景色』を知る者として、違ったオリンピックの形を残したいという思いは、羽生選手の中に必ずあったはずです」
ショートはアクシデントがあり8位発進。しかし白井には共鳴するものがあった。
「ショートでの出遅れは、気持ちを切り替える材料になるかもしれないと思いました。僕も1日目で出遅れて、2日目は気持ち良く演技できたという経験があります。『逆転のためには成功させるしかない』と吹っ切れた、そうあって欲しいと思いました」
迎えたフリーでは、冒頭で4回転アクセルを跳んだ。
「彼が努力してきた形を出せたんだ、と思いました。転倒はしましたが、外に見えたジャンプの形ではなく、そこに挑む心意気、人間の内側の部分に感動しました」
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photograph by Asami Enomoto/JMPA