シーズン終盤、並外れた体躯に類稀な才能を宿した若き豪腕の快投は、スターの誕生を予感させた。その一方で、新たな舞台に歩みを進める者もいる。彼らの肉声で2年ぶりのフルシーズンを振り返ろう。
佐々木朗希がクライマックスシリーズファーストステージ初戦の先発登板を告げられたのは11月上旬のことだった。ZOZOマリンスタジアムでの練習に出ていこうとしたとき、投手コーチの吉井理人に呼び止められた。
「お前、初戦だからな」
あらたまって何か重大なことを伝えるというよりは、ごく自然なことを口にするような調子だった。
佐々木は内心で、吉井の言葉をこう受け止めていた。
「自分が楽天戦に一番投げていて、相性も悪くなかったので、そういうところだったのかなと思いました。もし1戦目に負けたら、2戦目、3戦目が重要になってくるので、そこに経験豊富な先輩方をもっていきたかったのかなと……」
ただ冷静に考えてみれば、日本シリーズ進出をかけたプレーオフの第1戦に、このシーズンにデビューしたばかりの20歳が投げるというのは、やはり特別なことだった。何しろ数字のことだけで言えば、佐々木はまだプロで10試合にしか投げておらず、3勝しかしていなかった。
それにもかかわらず、チーム内には、佐々木が最も重要な試合に先発することを訝しがる空気はなかった。予告先発が発表されても、メディアや世の中から驚きの声はあがらなかった。佐々木がその舞台に立つことは、あらかじめ“約束”されたことであるかのように受け止められていた。
11月6日。ZOZOマリンスタジアムは秋の陽射しを浴びていた。東京湾をバックにしたスタンドは人で埋まり、その無数の視線のなか、佐々木がひときわ長い手足を躍動させてマウンドへと駆け上がった。
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photograph by Asami Enomoto