今季終盤、縦縞が若き大砲の失速と歩調を合わせるかのように勢いを失った事実は、彼がすでにチームの浮沈を左右する存在であることを浮き彫りにした。力強さと脆さが同居した怪物と、タイガースの苦闘を振り返る。
その瞬間、矢野燿大監督の目には光るものが浮かんでいた。
「テル……あのプレーはなんや?」
怒りに震えた言葉を投げかけられ、佐藤輝明はまだ汗だくの顔面を強ばらせるしかなかった。
年に数回あるかないかという緊急ミーティングの号令がかかったのは8月25日、DeNA戦に大敗した直後のことだ。スコアは2-10。2位巨人に1ゲーム差まで迫られたタイガースには、よどんだ空気が充満していた。京セラドーム大阪の一塁ベンチ裏。食堂に集められたナインのほとんどは指揮官の感情に察しがついていた。
チームは7点ビハインドの9回表無死、ルーキー牧秀悟にサイクル安打を達成されていた。最後は右翼線への飛球になぜか佐藤輝明の足が緩み、打球処理が遅れた末の三塁打。ファウルと判断ミスしたのか。打撃面の悩みが尾を引いていたのか。いずれにせよ、全力野球を標榜する矢野阪神にはあるまじきプレーだった。
「オレたちの野球を裏切るんだったら、そんな選手はもう使わない」
涙ながらの叱責に立ち尽くす佐藤の姿を目の当たりにして、今更ながら誰もが不変の事実を再確認させられることとなった。
怪物スラッガーはまだ、プロ1年目の新人だったのだ。
4球団が競合したドラフト1位の衝撃シーンをあげればキリがない。横浜スタジアム場外弾、プロ野球新人初の4番初ゲーム満塁弾、西武戦では1試合3発……。前半戦は84試合で20本塁打。新人初のセ・リーグ最多得票で球宴に選ばれるなど、全国の野球ファンの注目の的となった。
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photograph by KYODO