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[“世紀の対決”の記憶]アーモンドアイ「史上最強牝馬、有終のサンセット」

2021/10/09
三冠馬が3頭揃い踏みとなった昨年秋のジャパンカップ。ラストランの女王はどのような「最後の日」を迎えていたのか。トレーナー、調教助手、主戦ジョッキーがその舞台裏を明かした。

 2020年11月29日、「世紀の対決」と騒がれたジャパンC当日の午前6時過ぎ。朝陽が差し込み始めた東京競馬場の厩舎エリアでは、調教助手の根岸真彦がアーモンドアイの手入れに取り掛かっていた。東京のレースに出走する場合、土曜日の早朝に美浦トレセンから輸送して現地で1泊。当日の朝は馬の気分転換を兼ねて40分ほどの運動を行うのが常である。

 前日の夜はよく眠れた。何度も来ている競馬場とあって、馬も落ち着いている。この日の府中市の最低気温は4.5℃。晩秋というより冬の訪れを感じさせる冷気に包まれて運動をしていると、“いよいよなんだな”という感慨が自然に湧いてくる。

 来春からの繁殖入りが決まっているアーモンドアイがレースを走るのは、この日が最後になる。数々の栄光に彩られた競走生活を締めくくる一戦には最高のお膳立てが整っていた。

 新型コロナウイルスとの戦いに世界中が振り回された'20年、日本の競馬界では暗い世相に光明をともすように、歴史的な快挙が次々に打ち立てられた。秋華賞のデアリングタクト、菊花賞のコントレイルと無敗の三冠馬が2週連続で誕生。さらに翌週の秋の天皇賞では'18年の三冠牝馬アーモンドアイが、過去のどんな名馬もたどり着けなかったGI8勝目をマークし、歴代単独トップの座に躍り出た。

 異なる道を歩んできた3頭の軌跡は、まるで運命づけられていたかのように1つに重なっていく。デアリングタクトの陣営が真っ先にジャパンCへ名乗りをあげると、菊花賞のダメージを慎重に見定めていたコントレイルの陣営もこれに続いた。その1週間後(11月12日)、有馬記念や香港などの選択肢も検討していたアーモンドアイの陣営も、「ジャパンCをラストランに引退」と発表。3頭の三冠馬が一堂に会し、「世紀の対決」と呼ぶに相応しい空前のビッグマッチが実現する運びとなった。

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photograph by Keiji Ishikawa

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