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<メジャーが見たNOMOの衝撃> ジェイソン・バリテック 「ノーヒッターの夜の記憶」

2020/08/26
元レッドソックス捕手のジェイソン・バリテックが野茂英雄を語る。

 ヒデオが2001年4月4日にオリオールズ戦で達成したメジャーで2度目のノーヒッターについて、真っ先に思い出すのは、実はあの日を迎えるまでの彼の状態が決して良くなかったことなんだ。スプリングトレーニングを通じて、彼の投球には強度が備わっていなかった。プレシーズンゲームの間は制球も良くなくて、多くの打者を四球で歩かせたように記憶している。ただ、いざ開幕し、初先発マウンドに立ったら、試合前のウォームアップの時点で彼の投げるボールの勢いが違った。球速もこれまでより出ていたことに驚かされたものだったよ。

 その2日前の開幕戦で、当時レッドソックスの大エースだったペドロ・マルチネスが好投したにもかかわらずオリオールズ相手に延長戦で負けてしまった。ヒデオはプレシーズン戦では毎試合のように5、6失点を喫するような状態だったから、開幕直後から困ったことになったと思ったものだった。そんな状況でヒデオがマウンドに上がり、とてつもないピッチングをしてしまったんだ。

舞台が整えば調子が一気に上がる。

 まだ寒く、投げやすい環境ではなかったというのに、速球とフォークを上手に混ぜ合わせ、しかもゲームが進むにつれ真っ直ぐはよりパワフルになっていった。とにかく速球が力強かったから、あの日は通常より多くの速球を要求したのを覚えているよ。

 新入団のヒデオとバッテリーを組むのはあの試合が初めてだったから、準備はやはり容易なものではなかった。ただ、ベテラン投手というのは、どんな状況でもやるべきことがわかっているもの。そして、すごいピッチャーというのは、(公式戦の)明るいライトが灯り、舞台が整えば、調子が一気に上がるものなんだってことを個人的に学ばせてもらった。あの1試合で私はヒデオについて多くを学び、彼が“ライオンのハート”を持った投手だっていうことにも気付かされたんだよ。

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photograph by Getty Images

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