今から10年前の新日本プロレスに、崖っぷちの師弟がいた。練習にまったくついていけない練習生に「俺でよければプロレス教えるよ」と声をかけたその男もまた、団体の次期エース候補と目されながら、なかなか自分の殻を打ち破れずにもがいていた。
どこか似た境遇の2人は、マンツーマンの練習で絆を深め、やがて落ちこぼれだった練習生は立派にデビューを果たす。弟子の海外武者修行が決まった際、師匠は約束の言葉を口にした。
「帰ってくるときには、俺が新日本の主役になってるから。帰ってきたらシングルマッチやろうぜ」
2016年11月に凱旋帰国した高橋ヒロムは、迷うことなく師匠である内藤哲也が率いる「ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン」に加入した。約束の一戦を自身が選ぶ最高のタイミングで行うために、同じコーナーに立っていようと考えたからだ。
そして'20年2月9日大阪城ホール大会。文字通り「新日本の主役」としてIWGPヘビー級王座、インターコンチネンタル王座の二冠防衛に成功した内藤は、リング上にIWGPジュニアヘビー級王者のヒロムを呼び込んだ。毎年恒例の3月「旗揚げ記念日」では往々にして、ヘビー級王者とジュニア王者のドリームマッチが組まれている。ともに王者同士、約束を果たす最高の舞台が整った。
だが2人の対戦が発表されていた3月3日大田区総合体育館大会は、新型コロナ禍の影響により中止に。お互いにとってレスラー人生の大一番となるはずだった一戦が流れてしまった2人は、いま何を思うのか。そしてもし実現していたのならば、この試合は「ベストバウト」となりえたのか。制御不能な師弟対談の行方は――。
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