誰よりも押し、誰よりも走り、誰よりも転ぶ――。W杯での活躍を機に全国区の知名度を勝ち得た日本代表左プロップの屈強さの秘密を探るべく、彼を熟知するトレーナーとコーチのもとを訪ねた。(初出:Number996号<トレーナーとコーチも太鼓判>稲垣啓太の硬骨の肉体を見よ。)
いつか笑うのか。かつて笑ったのか。白い歯はのぞくか。口角がどのくらい上がったらスマイルと定義されるのか。
ここに断じます。
そんなことはどうでもよい。
稲垣啓太は、形容不能の表情とは無関係に、いつでも稲垣啓太である。本日も弱音とエクスキューズを死語としながら、押して走って転んで、たちまち起きて、すぐに仲間とチームの勝利のためのしんどくて痛い攻守を始めるだろう。
見るべきは顔にあらず。
骨だ。
越後生まれの硬骨の人のぶっとくてカッチカッチのボーン。そいつがもたらす気骨こそを凝視するのだ。
新年某日。京都は京田辺。時の人の営むスタジオ(ジム施設)にジャパンの背番号1の大きな背中はない。いまごろ遠く群馬の太田で練習だろう。しかし影は残る。残っている気がする。
ゴッドハンドが保証する「骨太」。
「頭蓋骨、手首、膝関節、足首、ひとつひとつの骨が太い。これは天性かもしれません。構造上、頑丈です」
佐藤義人は言った。
42歳。鍼灸師にしてトレーナーである。ちょうど取材の2日後、密着取材の対象となった民放の人物ドキュメンタリー番組が放映され、いっそう全国規模で存在を知られた。高名は有名と化した。
誰が呼んだかゴッドハンド、そのノウハウと効果はスポーツ界において多くの信奉を集め、2015年のイングランドでのワールドカップに同行、昨年の日本大会でも一部の選手のケアに携わるなど、ラグビー界との縁は深い。
稲垣の体のサポートも担う。だから、先の「骨太発言」は幾度も幾度も手を当てた者の実感のはずである。
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photograph by Atsushi Kondo