#776
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<本格派誕生秘話> 澤村拓一 「不器用さが生んだ剛速球」

2011/04/15
頑固なまでのストレートへの拘り。自らに課し続けた過剰な負荷。
巨人軍への熱き憧憬。あまりに真っ直ぐな23歳の若武者はいかにして
生まれたのか。 2人の恩師、良き好敵手、そして本人の言葉から実像に
迫った。

 ジャイアンツ球場にある室内ブルペンの片隅。暗幕を張った即席スタジオでの写真撮影を終えると、スパイクを履き替えながら、澤村拓一が近くにいた広報にぼそっと呟く。

「一回も……笑ってないんですけど……」

 いくつかポートレイトを撮らせてもらったのだが、笑顔を作らなくてよかったのか気にかけていたのだった。「いいんだよ」と言うと、うん、とうなずく。ただ、そう言う澤村の顔も、ちっとも笑ってはいなかった。

 澤村はグラウンドでは滅多に笑わない。いつもニコニコしている同僚の坂本勇人や、斎藤佑樹(日本ハム)とは対照的だ。直後に行なわれたインタビュー。開幕先発ローテーション入りを確実にしたルーキーは、無愛想にも見える真面目な顔で、のっけから過激な言葉を吐いた。

「先発ピッチャーである以上、その日の調子の良し悪しに左右されることはないですね。その場、その場で勝負するしかない。勝負事は、勝つか負けるか。極端な話、やるかやられるかの世界なわけじゃないですか」

 殺るか、殺られるか。かつて、プロ野球選手から聞いたことがあっただろうか……。

「逃げ道を作りたくないんです。1点くらい取られてもいいとか、自分に都合のいい言い訳を作ってマウンドに上がりたくない。本当に一人ひとり、打ち取ることしか考えていません。技術云々よりも、まずは気持ちで負けちゃいけない。向かっていきたいですね」

 こちらの目を真っ直ぐ見つめ、端然と話す姿は、果し合いに赴く野武士のようだった。

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photograph by Yusuke Nishimura

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