- #1
- #2
Number ExBACK NUMBER
大学生3人を殺害したヒグマ「毛は逆立ち、よだれが糸を引いていた」事件の生存者(87歳)が直前に感じた“異変”「我々を待っていたように見えた」
text by

伊藤秀倫Hidenori Ito
photograph byJIJI PRESS
posted2026/10/28 11:03
エゾヒグマ(画像はイメージです)
「幸い、すぐに足が抜けたから5人一緒に逃げることができた。あそこでもし彼の足が抜けなかったら、引き返さざるを得なかった。幸運でした」
この場面はBもこう書いている。
〈突然、前にいたW(*手記では実名)の足が、ハイマツに足をとられ、くるぶしまで埋まり抜けない。うしろからクマがくる。しまった!と思ったとたん、かれの足がスルリと抜けた。まさに奇跡であった〉
爪で裂かれた水筒「またクマが来るかも」
ADVERTISEMENT
30メートルほど走って振り向くと、クマはもう追ってこなかった。
キスリングの中の食料を漁っているのか――最初にクマに遭遇してから30分が経っていた。
5人はその後、キャンプ地に向かう途中で、別ルートの北海学園グループと出会う。
吉田らは「クマにやられた」と口々にまくしたてたが、別ルートグループの反応は鈍かった。
「冗談だと思われて、“またぁ”と、なかなか信じてもらえなかった。だけど『見ろ、ザックないだろ?』と言ったら、ようやく信じてくれた」
16時50分、この日は「九の沢カール」にテントを張った。
Bの手記によると翌25日早朝、荷物を回収すべく現場に戻ってみると、三つあった大きなキスリングのうち二つは、跡形もなく消えていた。
ひとつだけ残されたアタック用の小型ザックも爪でひっかかれて、使い物にならない。
〈(*アタックザックの中味は)岩の上にきれいに並べてあった。まるで人間が並べたかのように。付近をさがしていると、あの白い帽子(*Bが前日クマに襲われた際に被っていった帽子が風で飛ばされている)、ナイフ、地図がみつかった。どうやら、(クマは)九の沢カールへおりたらしい。「早くいくべ、クマがまだいるかもしれないぞ」すべてのものがよだれでぬれていた。われわれは、即座にここをあとにした〉(Bの手記)。
吉田もこう振り返る。
「水筒でもなんでも、ぜんぶ爪で裂いてありました。それを見て“またクマが来るかも”と怖くなって、急いでその場を離れました」
彼らはそのまま、この山行の目的であるカムイエクウチカウシ山を10時45分にアタックした後、この日のキャンプ地である八の沢出合いまで降りている。
