甲子園の風BACK NUMBER
ドラフト戦線に異変…有望高校生がメジャーでもプロ野球でもなく“浜松の社会人チーム”に進んでいた「まるでプロの環境」「スカウトうまい」ヤマハの謎を追う
text by

井上幸太Kota Inoue
photograph byKota Inoue
posted2026/10/21 11:00
今春、社会人野球・ヤマハに進んだ芹澤大地
企業が野球部を持つ意味は、二つに大別される。一つは、各種大会で勝ち進むことで、企業名を轟かせる、“PR”の側面だ。
もう一つが、従業員が野球部を応援することで社内に一体感を醸成し、労働の士気向上や愛社精神を生む狙いである。社会人野球が隆盛を誇った時代は高度経済成長期と重なり、労働意欲向上に一役買っていたことは、大いにうなずける。
一方で、チームを維持するには金がかかる。練習環境の整備、優秀な選手の獲得はコストを要する。
ADVERTISEMENT
母体である会社は営利企業。言わずもがな、本業での利益を追求する立場にある。そのため、投資に対する見返りが少なければ、容赦なくコストカット、“撤退”が選択肢に入る。日産自動車のように、休部から復活するケースもないわけではないが、大半の場合、休部は“廃部”を意味する。国内最大手の総合電機メーカーという“大企業”であっても安泰ではない事実は、社会人野球の苦境を色濃く映し出している。
メジャー注目の芹澤…ヤマハを選んだ驚き
静岡県内に目を移しても、ヤマハと同じく浜松市を根城とし、楽器メーカーの河合楽器が2001年を最後に休部。さかのぼると、富士市の大昭和製紙も1993年に活動に区切りを付けており、現在はヤマハが当地唯一の企業チームとなっている。
そのヤマハに今春、芹澤大地が入社した。芹澤は高蔵寺高という、全国的には無名な愛知の公立進学校出身ながら、最速151キロの速球を投じ、国内のみならずMLB球団のスカウトからも注目された逸材だった。
日ごろ、東海地区を取材領域としていない私は、語れるほど芹澤を見てきたわけではない。投球を生で観たのは、昨春の侍ジャパンU-18代表選手強化合宿が最初で最後。それでも、長身痩躯を目いっぱいしならせ、全国区の強打者を差し込む速球には目をうばわれた。
明らかに未完成で、無限の可能性を秘めた好左腕は、ドラフト指名を有力視されていたが、高校最後の夏の愛知大会で敗れた直後に「社会人志望」であると明かした。大学でもプロでもなく、社会人野球のヤマハに。このことは野球界で驚きをもって伝えられた。
なぜ成功? ヤマハの謎
さらに今年、高校野球を取材するなかで、自チームの選手がヤマハの練習に参加したという指導者の話を聞く機会があった。その指導者は「ヤマハはスカウティング巧者」と語り、そのスカウト戦略をこうまとめた。
「高校生は素材型を狙いにいって、大学生は“プロ待ち”の選手を上手く見つけているみたいですね」
なんでも、有力な高校生、大学生を自社の練習場に呼び、実際に練習に参加させるのだという。
決して安泰とは言えない社会人野球の情勢にあって、どうやって好選手を獲得、育成し、厚い選手層を生み出しているのか。まるでプロ野球チームのような設備投資がなぜ可能なのか。

