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野球クロスロードBACK NUMBER
センバツは「マクドナルド杯」、夏の甲子園は「コカ・コーラ杯」に!?…東大卒元プロが語る“野球エコシステム”の必要性「高校野球の経済的価値は…」
text by

田口元義Genki Taguchi
photograph byHideki Sugiyama
posted2025/06/11 11:03

大手メーカーのプロ野球事業「規模縮小」など野球の地盤沈下を懸念する小林至さん。一刻も早い「エコシステム」の構築が必要だと語る
――普段の指導に加えてスポンサーセールスにも力を入れるとなると、現場の負担がますます増えてしまいますが。
小林 その「負担」を無償の奉仕でまかなおうとするのではなく、大人が業務として担う必要はありますね。時間や労力に見合った報酬がきちんと支払われるべきだと思います。その報酬体系を整えるうえでも、ライセンス制度のような仕組みを導入し、役割や責任を明確にしていくことが必要です。
報酬や契約が可視化されれば、お金の流れも透明になりますし、不必要なトラブルや不透明な慣習の排除にもつながるはずです。むしろそうした仕組みがあることで、今よりも健全でクリーンな高校野球の運営が可能になるのではないでしょうか。
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――ライセンスを持つ人材への資金補助も必要になりますし。こういった新たなプラットフォームを作るためにも、日本高野連などの団体が率先してエコシステムを築くべきだと。
小林 そういうことです。
――そのためには、具体的にどのような資金調達が考えられるでしょうか。
小林 たとえば、プロ野球選手がポスティング制度を通じてメジャーリーグに移籍した際、移籍元の球団には高額な譲渡金が支払われます。最近では、オリックスから移籍した山本由伸選手のケースで、球団は約72億円の譲渡金を受け取ったと報じられました。
サッカーではFIFAが定める「連帯貢献金(solidarity contribution)」という制度があり、国際移籍時に発生する移籍金の一定割合が、育成年代で選手を育てたクラブに分配される仕組みがあります。これを野球でも応用できるはずです。たとえば譲渡金の5%を「育成連携基金」として拠出すれば、山本選手のケースであれば約3億6000万円の原資になります。これを出身校などに分配してもよいですし、公平性の観点から、日本高野連などが中央管理し、必要な高校や地域に配分していく形でもいいでしょう。いずれにしても、明確な仕組みをつくることで、育成現場を持続的に支援するエコシステムが実現可能だと考えています。
甲子園にもスポンサーの冠名を!?
――日本には同調圧力や他者の目を気にするといった気質があります。繰り返しになりますが、やはり野球界として組織が一本化されないと、高校野球だからこそ一歩を踏み出すことをためらうのは目に見えるというか。
小林 その通りだと思います。ただ、競技人口が年々減少し続けている今、野球界全体が危機感をもたなければ、本当に“縮小再生産”の道をたどることになりかねません。運営側が「これまで通りで問題なかった」と構えていては、変化を求める時代の流れに取り残されてしまいます。
たとえば、春のセンバツを「マクドナルドカップ」、夏の甲子園を「コカ・コーラカップ」といった具合に、名称の議論が起こるほどの危機感があってもいい。もちろん慎重に進めるべき課題ですが、影響力の大きな高校野球が改革の先頭に立つことで、他の世代や団体にも前向きな波及効果が期待できます。そうした意味でも、今こそ野球界全体でエコシステムの構築に取り組むタイミングだと思います。

