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野球クロスロードBACK NUMBER
センバツは「マクドナルド杯」、夏の甲子園は「コカ・コーラ杯」に!?…東大卒元プロが語る“野球エコシステム”の必要性「高校野球の経済的価値は…」
text by

田口元義Genki Taguchi
photograph byHideki Sugiyama
posted2025/06/11 11:03

大手メーカーのプロ野球事業「規模縮小」など野球の地盤沈下を懸念する小林至さん。一刻も早い「エコシステム」の構築が必要だと語る
――小林さんはオリックスと近鉄の合併に端を発した球界再編問題が起こった2004年以降、NPBの抜本改革にも奔走されました。
小林 私がNPBの改革に関わるようになったのは2005年以降なのですが、当時、微力ながら取り組んではみたものの、率直に言って思うような成果は出せませんでした。NPBを中核に据え、12球団が一体となって運営されるような仕組みを築くことは、残念ながら実現しませんでした。
――それはなぜでしょう。
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小林 たとえば、米国のMLBでは「MLB.com」にすべての映像や情報が集約され、商業面・広報面の展開が非常に効率化されています。日本でも同様に「NPB.com」のような共通プラットフォームを構築し、映像やデータを集約・管理することができれば、スポンサー営業や収益分配などの仕組みもよりスムーズに回せると考えていました。しかし現実には映像の使用ひとつとっても、球団側から「それはテレビ局に確認を」と言われ、テレビ局側からは「それは球団の権利です」と返される。そうした権利関係の複雑さが障壁となっていました。特に当時のセ・リーグではそうした構造が強く残っており、12球団での共通運用に至るのは困難でした。
結果として、パ・リーグでは6球団による合弁会社「パシフィックリーグマーケティング(PLM)」が設立され『パ・リーグTV』のような仕組みが生まれました。たとえば今、佐々木朗希選手が完全試合を達成した2022年4月10日の試合映像も、ファンが簡単に見返すことができます。その一方で、仮に大谷翔平選手の日本ハム時代の全ホームランを見ようと思っても、セ・リーグ主催の交流戦での映像には著作権上の制約があるため、閲覧が難しい現状があります。こうした点が、12球団全体のコンテンツ戦略がなかなか一元化されない理由の一つでもあります。
高校野球の持つ「経済的価値」
――日本野球におけるエンターテインメントの最高峰であるプロ野球がそういう状態ならば、アマチュアの改革はより難しそうですね。
小林 スポーツビジネスの観点から見れば、高校野球は非常に大きな可能性を持った存在です。このことは私たち専門家の見方にとどまらず、多くのファンの方々も感じているところでしょう。主催者の発表によれば、春のセンバツでは約5億円、夏の甲子園では約9億円の入場料収入があるそうです。大会だけで年間15億円近くを生み出していることになります。仮にエコシステムが適切に機能すれば、100億円規模の価値を創出することも不可能ではないと考えています。