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「世界王者は15年以上不在…内部分裂も」井上尚弥にキム・イェジュンが挑戦“韓国ボクシング”の寂しい現状…“日本人の壁”だった強国はなぜ衰退した?

posted2025/01/21 17:05

 
「世界王者は15年以上不在…内部分裂も」井上尚弥にキム・イェジュンが挑戦“韓国ボクシング”の寂しい現状…“日本人の壁”だった強国はなぜ衰退した?<Number Web> photograph by Hiroaki Finito Yamaguchi/AFLO

2013年4月、日本で試合をするキム・イェジュン。当時はまだ4回戦ボクサーだった

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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Hiroaki Finito Yamaguchi/AFLO

 スーパーバンタム級4団体統一王者、井上尚弥(大橋)の世界タイトルマッチが1月24日、東京・有明アリーナで行われる。当初、挑戦者に予定されていたIBF、WBO1位のサム・グッドマン(オーストラリア)が左目上を負傷してリタイア、急きょ抜擢されたのがWBO11位のキム・イェジュン(金芸俊)だ。キムの挑戦を切り口に、韓国ボクシングの現状について考えてみたい。

かつて日本人選手の前に立ちはだかった韓国の名王者たち

 井上の挑戦者に無名のキムが抜擢されて驚いたファンも多いことだろう。グッドマンが怪我をして1カ月の試合延期を申し出たのが12月の中ごろ。プロモーターの大橋秀行会長がそこから代役挑戦者を探し始め、唯一手を上げたのがキムだった。グッドマンが出場可能ならキムは「リザーバー」として前座に出場するはずだったが、グッドマンが再び同じ箇所を負傷したため、井上の挑戦者に格上げとなった次第だ。

 さて、代役がキムと聞いて「韓国人の挑戦者は久しぶりだな」と感じた人は正しい。男子韓国人の主要4団体世界王者は2004年にWBCスーパーフェザー級王座に就いた池仁珍が最後。池が06年に同王座に返り咲き、翌年はく奪されて以降、朝鮮半島にベルトは届いていない。世界挑戦者を調べても、15年11月、ベ・ヨンギルがタイでWBCミニマム級王座に挑戦して敗れて以降、新たな記録は見当たらない。近年では世界ランキングに顔を見せるボクサーもめったにいなくなった。

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 かつて韓国はボクシング大国であり、長きにわたり日本のよきライバルだった。世界タイトルマッチにおける初の日韓対決は75年、“炎の男”輪島功一と柳済斗の一戦。第1戦は柳が7回KO勝ちを収め、翌年の再戦では絶対不利を予想された輪島が劇的な15回KO勝ちで雪辱、日本列島を熱狂の渦に巻き込んだ。

 80年代から90年代にかけては後の殿堂入りボクサー、張正九と柳明佑が日本人ボクサーの前に立ちはだかった。WBCライトフライ級王座を15度防衛した張は大橋秀行を2度退けるなど、これでもかというほど私たちに悔しい思いをさせた。この後、大橋が日本人世界挑戦の連敗を21で止め、殊勲の世界タイトルを奪った相手が同じ韓国の崔漸煥だったのはご存知の通り。WBAライトフライ級王者の柳はいまだ同級の連続防衛最多記録となるV17を達成。V18を阻止したのは井岡弘樹である。

【次ページ】 “替え玉”スキャンダルに内部分裂…衰退の理由

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