フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
「世界は待ち望んでくれているだろうか?」現地ロシアでフィギュア連盟会長が語った…ミラノ・コルティナ五輪参加が認められた“ロシア選手の現状”
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byJIJI PRESS
posted2024/12/25 17:31
ロシア選手権で優勝したアデリア・ペトロシアン
例えば2022年にエフゲニー・プルシェンコがアイスショーのツアーを行った際、ある開催地では地元の自治体がリンク中を戦争支持を象徴するZの文字で飾り立てた。中にはエリザベータ・トゥクタミシェワのように、政治色の強い背景で滑ることに抵抗を示したスケーターもいたが、大多数はそのままショーに出演した。
「このショーに出場したことが、戦争を支持したと解釈されるのかどうか、そこはまだわからないのです」
2024年パリ夏季オリンピックでは、結局こうした調査を経て出場が許可されたロシアの選手は全種目を通して、わずか15人だった。
ドーピング検査は“ロシア以外の組織”が行う
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ドーピング違反の問題もある。もともとロシアは国家による組織的ドーピング違反を理由に、IOCは平昌、北京オリンピックとも国歌と国旗の使用を禁じた上でロシアの選手の参加を認めてきた。だが北京でカミラ・ワリエワの陽性が発覚し、フィギュア史上過去にない大スキャンダルとなった。ロシアの選手の復帰に反対する世論は、侵略戦争よりも、ドーピング違反を懸念する声が大きい。
「今回は推薦された代表選手たちは、ロシアあるいはベラルーシ以外の国の反ドーピング機関によるドーピング検査を受けなくてはなりません」とフラード氏は説明する。
度重なる不祥事で国際社会の信頼が失われたRUSADA(ロシア反ドーピング機関)ではなく、IOCおよびISUの指定した他国の機関が検査を執行し、分析をする。またこれはロシアの選手に限ったことではないが、抜き打ち検査に対応するため、選手たちは常に自分たちの所在地を明確にしておかなくてはならない。
「大きな賭けになる」選考のタイミングも異例
さらに、選考のタイミングも問題になってくる。
「ロシアフィギュアスケート連盟は、遅くても2025年2月の末までに男女各1名、ペア、アイスダンス各1組、そしてそれぞれの補欠、合計12名の選手の名前を提出しなくてはなりません。次のシーズンまでその選手が良いコンディションを保っているかどうか、大きな賭けになります」
もともとロシアフィギュアスケート連盟は、国内選手権の結果だけでオリンピックの代表を決めたことはなかった。実力の競っている選手が多いため、各種のテストスケートイベント、欧州選手権などの結果も考慮して、ぎりぎりになってから代表を決めるのが常だった。
だが今回は、1年前に出場選手の顔ぶれを決めなくてはならない。
「夏の間に補欠も含めて全員のバックグラウンドチェックをすませ、後はもうメンバーの差し替えは許されていません」とフラード氏。
推薦した選手が何かのチェックに引っかかった場合は、補欠が繰り上がる。だがその補欠にも何かが起きたら、その種目は派遣できないことになる。