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「日本選手に感動したわ」パリ五輪スタッフが絶賛、敏腕通訳は涙…あの“論破王”もアツくなった日本フェンシング「なぜ現地で感動を呼んだ?」
text by
齋藤裕Yu Saito
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2024/08/07 11:30
パリ五輪で銅メダルを獲得したフェンシング女子フルーレ団体の日本代表。左から宮脇花綸、上野優佳、菊池小巻、東晟良
「一番感謝をしたいのは彼女」百戦錬磨の通訳も涙
女子フルーレの4人娘を「お姉さん」として支えたのが通訳の郷倉マリーンだ。
「気軽に小さなことでも相談できるトレーナーのような存在でありたいと思っています。お姉さんみたいになれたらいいのかな」
そう語っていた郷倉は、コーチとは違う立場で海外遠征などをサポート。世界遠征時にAirbnbなどで宿泊する選手たちの身の回りの困りごとの相談に乗り、過去のフランス滞在時にはお菓子を作った選手たちに誘われ、茶話会に参加。今回の五輪でも、団体戦銅メダルに大きく貢献した菊池小巻(個人戦には出場せず)といっしょに個人戦を観客席から見守っていた。
2018年1月からボアダンコーチの通訳として約6年半、チームを支えてきた。タイムラグなしで同時通訳が可能な卓越した才能を持つ。それをさも当然かのように、表情を変えることなく淡々と遂行している。父は日本人、母はフランス人。ダカール生まれで母語はフランス語。バカロレア教育を受けながら、日本語をイチから学んで習得してみせた。
その能力を買われ、モータースポーツの最高峰F1の通訳に請われることもある30歳。だが、銅メダル獲得後、百戦錬磨の才媛が通訳できずに涙した言葉があった。
質問対応を終えたボアダンコーチが突然、「ひとつだけ付け足したいことがあります」と自ら切り出す。
「メダル獲得はチームで成し遂げたことです。コーチ、メディカルスタッフ……」
普段ならすぐ言葉が出てくるはずだが、表情が歪む。
「そして一番感謝をしたいのは隣にいてこうやって通訳してくれる彼女です……。毎日のように一緒にいてくれて、これまでたくさんの犠牲を払ってくれました」
泣いてうまく声が出せなくなっている通訳の頭にボアダンコーチはそっとキスをした。取り囲んだ20人以上の記者から次々と「おめでとうございます」の声がかかる。
もともとはフェンシングを知らなかった郷倉。少しでも選手と同じ知識を手にいれようと自身のインスタグラムで主要な選手をフォローしまくった。そうして他国の選手についても理解し、選手やコーチからも信頼を得てきた。その努力が今回の五輪でも結実した。金メダルを獲得した男子団体フルーレ、銅メダルを獲得した女子団体サーブルもフランス人コーチがいるため、通訳を兼任。計3つのメダルに関わった郷倉は「この五輪で世界一幸せなスポーツ通訳です」と笑顔を見せていた。