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「このままだと一生、中国人選手に勝てない…」早田ひな24歳が明かす金メダルへの覚悟「ぽかーんとした」卓球少女が“打倒中国”を目指すまで
posted2024/07/31 17:00
text by
松本宣昭Yoshiaki Matsumoto
photograph by
Itaru Chiba
発売中のNumber1101号[打倒中国を見据えて]早田ひな「自信が確信に変わったとき」より内容を一部抜粋してお届けします。
「マイペースで、ぽかーんとした性格」の卓球少女
2016年の秋、初めて取材した16歳の女子高生は、ママチャリのペダルを漕いでいた。いや、正確に言えば、ペダルに足を乗せたと同時にふらついて、ジグザグ。無邪気に「ひゃ~っ」と叫んでいた。
「自転車、小さい頃は普通に乗れていたんですけどね。卓球に夢中になっている間に、乗り方を忘れちゃいました。日本生命の選手寮で生活するときは自転車で移動したいので、今、練習しているんです」
自称「マイペースで、ぽかーんとした性格」。ところがラケットを握った途端、少女は卓球界期待の星に変身した。左腕を豪快に振り抜けば、とてつもない速さでボールが卓球台を駆けた。練習場には右足で踏み込んだ際に床を鳴らす爆音が響いていた。
さっきまでの天然っぷりはどこへやら。思わず同行カメラマンと目を見合わせた。インタビュー中も、いざ卓球の話となれば、きりっと前を見据えた。
「今の段階では無理かもしれないですけど、自分なら中国に勝って、五輪でメダルを獲ることができると信じています。きっとチャンスはあると思うんです」
勝つ自分に憧れている、という感覚
あれから8年――。日本のエースに成長した早田ひなは、パリ五輪への切符を手に入れた。現地へ向かう数日前、ママチャリでよろけていた頃について話を向けると、照れくさそうに笑った。
「あの当時、『中国に勝てるようになる』と言っていたのは、あくまで想像の世界だった気がします。ガチで勝つと思っているのではなく、勝つ自分に憧れている、そこを目指しているという感覚。左利きであることとか、プレースタイルの可能性を踏まえて、自分に言い聞かせていました」
24歳になった今は、違う。打倒中国を「目指す」のではなく、本気で勝ちにいく。
そんな変化をもたらすきっかけとなった試合が、ある。
「心が折れそうになりました。あのとき、このままだと私は一生、中国人選手に勝てないなって思ったんです」
東京五輪金メダリストとのスリリングな攻防
'22年夏、WTTチャンピオンズ・ヨーロピアンサマーシリーズ準々決勝でのことだ。相手は東京五輪金メダリストで、当時世界ランク2位の陳夢だった。
試合は序盤から両者一歩も譲らずスリリングな攻防が続いた。早田は伝家の宝刀フォアドライブを叩き込んで第1、第4ゲームを奪取。しかし、第2、第3ゲームは相手の得意なラリー戦に持ち込まれて失った。
迎えた最終第5ゲーム、先行する陳夢を捕まえて、8-8の同点に追いついた。流れは、早田の手の中にあった。