濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
激しいエルボー、気の強さも魅力…“実力派アイドルレスラー”梅咲遥22歳の覚悟「いつも“どれだけ頑張ったか”を見られてる」《特別グラビア》
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byTakuya Sugiyama
posted2024/01/27 17:01
ディアナのシングル王者・梅咲遥(22歳)。1月28日にタイトルマッチでウナギ・サヤカと対戦する
今は団体トップだが…プロテストに落ちた過去
最終的に入門したのは、プロレスにのめり込むきっかけになった団体ディアナ。井上京子が社長を務め、ジャガー横田も所属する“女子プロ保守本流”の団体と言っていい。梅咲は練習生として、ひたすら基礎を学んだ。
「基礎体力、受身、ロープワークとかですね。ダレジョは“プロレスやるのは楽しいですよ”ということを教えてくれる場所でした。ディアナは“楽しいことをやる前に身につけることがある”という感じで。本格的にプロレスを楽しくやるためにはこれが必要なんだなと」
プロテストには2度目で合格。団体トップとして活躍する今から考えると信じられないことだ。
「不合格だったのは“いつもの練習よりできてない”という理由で。確かに、と思いました。プロテストを受けたのは試合会場の新木場1stRING。お客さんもいる前で、1人で受身やロープワークをするんだからいつもと違って当然ですよね。でも、それを乗り越えないとプロにはなれない」
プロレスにおける基本、基礎の重要性はどんなところに表れるのか。梅咲はこんなふうに表現してくれた。
「たとえば他団体に出た時に“この選手は受けが危なっかしい”、“全力で技を出せない”と思われたら次のチャンスがなくなっちゃいますから。逆に技術が伴わない試合をして相手にケガをさせてもいけないですし。お互いの技に耐えられる肉体と技術がないと、プロレスはできないんです」
「普段は人とぶつかるのが好きじゃないですけど…」
こうしたスタンスからも、彼女の“本格派”、“実力派”ぶりが分かる。実際に試合を見ていて感じるのは、ドロップキック、ミサイルキックなどシンプルな技の美しさと気の強さ。とりわけエルボーの強さには定評がある。
「普段は人とぶつかるのが好きじゃないので静かにしてるんですけど、試合では気の強さが出ます(笑)。試合の中でも、エルボーの打ち合いは試合にかける気持ちを伝える手段になってますね。伝えるのは対戦相手にもお客さんにもです。そこは意地の張り合いで、キャリアの浅い選手だと“気持ちがついてきてないな”と感じる場合もあります。そうなると精神的にも相手に主導権を譲ってしまうことになる」
プロレスラーには、勝敗とはまた別のところで争っているものがあるというわけだ。たとえ試合に負けても、意地の張り合いで退かなければファンからも評価される。そしてそこが、他のスポーツジャンルとは違うプロレスの魅力だと梅咲は言う。
「他の格闘技で新人とチャンピオンが闘うことってほぼないですよね。あっても一瞬で終わっちゃうと思うんですよ。でもプロレスでは新人がチャンピオンとか大御所と試合をすることがある。プロレスは技を受けることで成り立つので、気持ちを出せば一瞬では終わらないんです。大事なのは立ち向かっていくこと。そう考えると怖いですよね。勝ち負けだけじゃなくて、いつも“どれだけ頑張ったか”を見られてるんですから」