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「早いラウンドで負けると言われていたが…」“井上尚弥を最も苦しめた男”ノニト・ドネアが試合翌日に語ったこと「パワーがあるとは感じなかった」 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2023/12/24 17:00

「早いラウンドで負けると言われていたが…」“井上尚弥を最も苦しめた男”ノニト・ドネアが試合翌日に語ったこと「パワーがあるとは感じなかった」<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

1度目の対戦では圧倒的不利予想の前評判を覆し、最終ラウンドまで井上を苦しめたドネア

 ドネアは苦しい状況で瞬時に判断したことを行動に移した。カウント中は、井上陣営が「あれは10カウントでしょう」(所属ジムの大橋秀行会長)というくらい粘り、立ち上がって一発を狙った。

「立ち上がったあとを見てもらうと分かると思うが、左フックが1回ヒットして、井上の動きが一瞬止まった。12ラウンドもできる限り強いパンチを当てることに徹した」

「自分は勝てると思ってリングに上がった」

 試合前、世代交代を掲げた井上に対し、ドネアは「壁になる」と言い続けた。実際に拳を交え、ドネアは井上をどのように感じたのだろうか。

「世間で言われているほど井上にパワーがあるとは感じなかった。ただそれに関しては彼も同じことを言うと思う。私は強打者と言われているが、彼は私のパンチをあれだけもらっても倒れなかった。もう一つ、こちらも自分に当てはまることだが、彼は強打を打つことによってディフェンスがおろそかになる傾向がある。強打を打つと、そういうリスクを背負わなければならない。そこが私と同じだと思う」

 最後に「もう一度、井上と試合をしたら勝てるか」と問いかけると、ドネアはサングラスの奥からこちらを見据え、やや声音を強めて言い切った。

「世間では早いラウンドで私が負けると言われていたけれど、自分は勝てると思ってリングに上がった。実際、井上を追い詰めて、倒しそうになった場面も作った。次にまたやるとしても、負けると思って試合をすることはもちろんない」

 フィリピンの強打者は今後もリングに上がり続ける。キャリア終盤に井上という若き実力者と接戦を演じたことで、もうひと花咲かせようという思いはより高まったように見えた。

ノニト・ドネアNonito Donaire

1982年11月16日、フィリピン生まれ。'01年フライ級でプロデビュー。階級を上げながら次々王座を獲得し、'14年、WBA世界フェザー級王座獲得で5階級制覇。'18年バンタム級に復帰しWBSSに参戦するが、決勝で井上尚弥に判定で敗れた。170cm。46戦40勝(26KO)6敗。

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