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「あの体型でついていけるのか?」スカウトの疑念…“メジャー3000本安打”大記録の日、なぜイチローは悔しがったのか? 記者が見た「逆風と自信」
posted2023/08/08 11:01
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph by
Getty Images
2016年8月7日(日本時間8日)。当時マイアミ・マーリンズに所属していたイチローがメジャー3000安打を達成した。日本では号外も出た日から7年、月日が経つのは早い。
3000安打は史上30人目の快挙だった。この金字塔は米国野球殿堂入りへの約束手形とも言われ、米国以外の出身選手では4人目、アジア出身では初となった。場所はコロラド・ロッキーズの本拠地クアーズ・フィールド。救援左腕クリス・ラシンのカットボールを捉えた三塁打だった。
当時、データ計測システム「スタットキャスト」の数値は一般的でなかったが、打球速度92.6マイル(約149キロ)、角度36度、飛距離364フィート(約110.9メートル)で右翼フェンス上部を直撃した。メジャー30球場中21球場で本塁打になる打球だったと記されている。三塁打での3000安打を達成は1996年のポール・モリターに続き2人目。本塁打を狙ったのかと問われたイチローは苦笑していた。
「いやいや、全く狙ってないですよ。そりゃイメージではホームランになったらいいなとかね、考えますけど、そんなに甘いもんではないというのも分かっていますし、ただ打球が上がった瞬間は越えてほしいと思いました。結果的には、三塁打で決めたというのは(親交の深い)ポール・モリターと僕ということだったので、そのほうが良かったなというふうに思いました」
イチローが3000本安打を放った日
常に思考はポジティブ。27歳で海を渡り、メジャー16年目での達成は歴代最多の4256安打を放ったピート・ローズと並び最速であり、42歳での到達となった。
12年シーズン途中のヤンキース移籍以来、ファンや周囲への感謝の意を常に口にするイチローは、敵地で沸き起こったスタンディング・オベーション、三塁側ベンチから駆け寄ったナインに謝辞を表した。
「達成した瞬間にチームメートたちが喜んでくれて、ファンの人たちが喜んでくれた。僕にとって3000という数字よりも、僕が何かをすることで僕以外の人たちが喜んでくれることが、今の僕にとって何より大事なことだということを再認識した瞬間でした」
2001年にリーグ最多の242安打を放ちデビューし、04年には歴代シーズン最多の262安打も記録した。10年には前人未到のデビューからの10年連続200安打を達成。この時点で2244安打を放ち、年平均は224.4安打。だが、ここからは5年半を要した。イチローは悔しそうだった。
「2年くらい遅いですよね。感触としては。ずいぶん時間がかかったなという感触です」
毎年200安打を積み重ねていれば14年に到達した計算が成り立つ。年齢を重ねても尚、自分を信じることのできる強さを感じた言葉だった。