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ネット上には100万円超の高額品も…剣道の竹刀を作り続ける“名工”に聞く「偽物が出てきてこその本物」「全国に20人ほど弟子が…」
posted2023/04/29 06:00
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph by
JIJI PRESS
優れた道具は競技者の力量を引き上げる。
三代目「弘光」を継承し、埼玉県草加市に工房を構える西野勝三さんの竹刀もそんな道具だ。西野さんの竹刀に替えて「日本最難関の試験」と呼ばれる八段審査会に一発合格した剣士もいるほど。名工の一振りを求めて、関西や東北など遠方から高段者が駆けつける。
この道ひと筋66年、82歳の西野さんによると、竹刀づくりの肝は素材と矯め(反りの矯正)。しかし竹林の減少や地球温暖化によって、近年、竹刀に適した硬く引き締まった真竹の確保が難しくなっているという。
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そんな厳しい時代に頼りになるのが、弘光を長年愛用してきた高段者たち。
「常連たちに“俺も長くないから、自分の竹刀は自分でつくれるようにしろ”と言っていたら、20人ほど弟子ができたんだ。覚えが遅いから腹も立つけど。中には定年後に竹づくりを始めた弟子もいれば、全国各地でいい真竹を見つけて届けてくれる弟子もいる。竹の産地は大事な要素だから竹刀に刻んでいるけど、そんなことしているのは俺くらいかな」
ネット上には100万円を超える高額竹刀もあるが…
竹は生きもの。竹刀を構成する4枚の竹は基本的に一本の竹から取られるが、一枚一枚個性が違うという。東西南北向きが違えば反りが変わり、強度も変わってくるからだ。そこで、矯めが重要になる。
「竹はもともと曲がっているから、まっすぐにしないといけない。しかも竹刀になってももとの曲がりに戻ろうとするから、十分ではなく十二分に矯めないといけないんだ。そこが難しくてね。俺もへそ曲がりだけど、ひどく曲がった竹に出会うと曲がりに呑まれて、その日の仕事がダメになっちまうんだ」
そういって苦笑する三代目の花押の焼き印がついた一振りは付属品なしで1万6800円(税抜)から。ネットには100万円もする超高級品も出ているので、つい「安いですね」と言うと、「60年以上やっていて、いまだに満足できる一振りができないんだよ。完璧なものができないのに、そんな値段はつけられないじゃないか。だからこそ、いまも竹刀づくりに飽きないのかもしれないけどね」。
近年、西野さんのもとには偽物の弘光が出回っているという弟子からの声が届いている。
「それは取り締まらないとダメですよ!」
思わず前のめりになって訴える筆者を制して、名工は悪戯っぽく笑いながら言った。
「偽物が出てきてこその本物かもしれないよ」
一本取られました。