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片岡安祐美「ケツポケットに生理用品を…」甲子園を目指した“唯一の女子部員”が感じていた過酷さ「野球をやめると宣言したこともある」 

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小泉なつみ

小泉なつみNatsumi Koizumi

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photograph byAsami Enomoto/球団提供

posted2022/09/17 11:02

片岡安祐美「ケツポケットに生理用品を…」甲子園を目指した“唯一の女子部員”が感じていた過酷さ「野球をやめると宣言したこともある」<Number Web> photograph by Asami Enomoto/球団提供

今年6月に出産、育児と並行しながら監督業も続けている片岡安祐美さん

「どうして男の子に生んでくれなかったんだろう…」

――野球を続けるなかで「女」であることが嫌になりませんでしたか。

片岡 ずっと思ってましたよ。「男だったら甲子園行けるのに」って。なんなら、どうして男の子に生んでくれなかったんだろうと思ったこともあります。

 一度、野球をやめると宣言したこともありました。小学6年生のときにクラスの女の子から、「私が◯◯くんを好きなことを知ってるのに、なんで安祐美は◯◯くんと仲良くするの?」と、野球部の男の子とのコミュニケーションをとがめられたんです。それまでも何度か同じようなことを言われたことがあったので、その度に「私はその子を好きなわけじゃなくて野球の練習をしているだけだよ」と説明していたのですが、さすがに女の子たちとの関係性が厳しくなってきてしまって。

 そのとき、「野球をやめたらこんな思いをしなくてすむのかも」と思い、父親に野球をやめる、と言ったんです。

――野球でも教室でも「異質な存在」として扱われたらつらいですね。

片岡 私がヘタだった、うまく馴染めなかったな、と思います。このときはお母さんの前で何回も泣きました。結局、やっぱり野球が好きな気持ちは消えなかったので数日後にすぐ再開するんですけど(笑)。

 逆に高校は7割が女子でしたが、「安祐美ちゃーん! 頑張ってーー!」みたいな感じで女の先輩も応援してくれる感じだったので、人間関係に悩むことはほとんどなく、本当に助けられました。

「初潮がきたときはショックでしたね」

――加えて、思春期になると第二次性徴で身体が大きく変わりますよね。アスリートとしてその変化をどう受け入れたのでしょうか。

片岡 初潮がきたときはショックでしたね。もちろん学校の性教育で習っていたので知識としては知っていたんですけど、それが現実の自分とは結びついていなかったというか、まったく考えてもいなかったんです。

――生理中でもハードな練習をこなしていたのでしょうか。

片岡 大きかったのは母の教えですね。小6のとき初潮がきてすぐ、「これからも野球を続けたいならこれの使い方を覚えなさい」と、タンポンの使い方を教えてくれたんです。

「ケツポケットに生理用品を入れて…」

――お母さんが教えてくれたらこの上なく心強いですね。でも、グラウンドに汚物入れ完備のトイレってあるんですか。

片岡 ないです。そもそも女子トイレすらないので、使用済みの生理用品は全部持ち帰っていました。それも全部お母さんに教わって、いつも黒いビニール袋とタンポンを持って行って。でも、ポーチなんて持って行ったらチームのみんなに生理だってことがバレちゃうんで、ケツポケットに入れたタオルに生理用品をくるんでごまかしていました。

――「生理は隠すもの」という意識があったんですね。

片岡 それはありました。徹底的に隠してたんで、周りの部員たちは「安祐美には生理がない」と思っていたと思います。茨城ゴールデンゴールズに入ってからも監督になる前は言いにくかったですし。なんでなのか考えてみると、それを言っちゃいけない雰囲気の中で育ってきたから言えなかった、というのはあると思います。

【次ページ】 男性社会の中で自分の身体をケアする難しさ

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片岡安祐美
熊本商業高校
茨城ゴールデンゴールズ

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