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《絶滅危惧種》「ピッチャー大きく振りかぶって」は死語になる? 松坂大輔の代名詞・ワインドアップの未来 今夏の甲子園では…
text by
小西斗真Toma Konishi
photograph byHideki Sugiyama
posted2022/09/07 11:00
甲子園を席巻した平成の怪物・松坂大輔の豪快なワインドアップ投法。“絶滅危機”の投法が甲子園で見られなくなる日は近い?
絶滅危惧種という言葉がある。読んで字のごとく「絶滅の危機に瀕している生物種」を意味する。転じて野球界では「昔は当たり前だったけど、いなくなりつつあるスタイル」に使われる。例えばアンダースロー、そしてワインドアップモーションである。
「ピッチャー、大きく振りかぶって第1球を投げました」。テレビやラジオの中継では、アナウンサーが決まり文句のように実況していたものだ。オールドファンが懐かしさを感じるように、オールドプレーヤーはこのフレーズに心を躍らされ、筆者も「大きく振りかぶって」投げる技を磨いた。
【絶滅危惧種】今夏の甲子園でワインドアップ投手は138人中なんと……
野茂英雄、山本昌広、桑田真澄、松坂大輔……。この世代より以前は、豪快にワインドアップで投げることは聞くまでもない常識であった。そして、この3人は各種インタビューや記事などで、ワインドアップはあこがれであり、譲れない美学であり、投手としての矜持そのものであると語っている。それを各々が引退するまで貫き通した。
今夏の甲子園では49校、138人の投手があこがれのマウンドに上がった。中には走者を背負った場面でしか投げなかった選手もいるのだが、ワインドアップで投げたのは3人しか確認できなかった。ノーワインドアップも少数派。大多数は走者の有無にかかわらず、セットポジションで投げていた。
言うまでもないが、ルールの制限はなくどう投げようとも個人の自由である。古いやり方が必ず正しいはずもなく、エースが完投するのが当たり前ではなくなったように、時代の移ろいとともに改善されるべきことはたくさんある。ただし、なぜフルタイムセットポジションが大多数になったのかを考えると「それも時代」で片付けるのに少々の抵抗がある。
「代表チームにワインドアップで投げる子はいませんでしたね。(自分の)子供の野球を見ていても、ほとんどいないんじゃないでしょうか」
そう話すのは、元中日ドラゴンズのエースとして活躍した吉見一起さんだ。この夏、U-12日本代表チームの投手コーチとしてワールドカップに参加した。このカテゴリーで、すでにワインドアップはほぼ絶滅している(恐らくトップレベルに限らず)のだが、その理由は何なのだろうか。