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「1時間で3mしか織れない」大相撲の“まわし”はなぜ昔ながらの作り方を変えないのか? 伝統を継承する難しさも…
posted2022/06/05 06:00
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph by
KYODO
用具の進化が止まらないスポーツ界。その一方で、まったく変わらないものもある。
その代表が力士のまわし。幕内力士は本場所、絹のまわしで取り組みを行なうが、稽古や巡業では幕下以下の力士や学生、社会人などアマチュア競技者が締めるまわしと同じものを着用する。このまわしは「帆布」でできている。カバンでよく耳にする、あの帆布だ。
戦前からまわしを一手に扱う三福商事の代表取締役社長、菅原通明さんが解説する。
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「硬い木綿布である帆布は、かつては中学生の肩かけカバンや跳び箱、体操マットなど、多くの場面で用いられていました。しかしいまは少なくなったので、帆布のカバンは値が張るわけです。しかもまわしは、一般的な平織りの帆布とは異なる綾織り。それも糸の密度を限界まで上げた生地なので、大量につくることはできないのです」
まわしの帆布はシャトル式織機でつくられるが、この織機自体すでに生産されていない。そのため、1960年代のものをメンテナンスしながら使い続けているのが現状だ。
「いわば、老朽化した機関車を日々酷使しているようなもの。スペアの織機もあるにはありますが、部品が壊れると鉄を削って新たにつくるなどして凌いでいます。そのシャトル式織機1台を1時間稼働させても、3mほどしか織れない。職人さんの高齢化も大きな課題になっています」
菅原さんの言葉に、伝統を継承する難しさを痛感する。
大男が掴んでもびくともしない仕上がり
三福商事が手がける帆布まわしは特1号から4号まで5種類あり、大相撲の幕内力士やアマチュアの強豪は特1号を使用する。幕下力士は、特1号から1ランク落ちる1号黒を着用。幕内に出世して、ようやく特1号の白で稽古ができるようになる。特1号ひとり分の標準サイズは幅47cm×長さ6.5mで、税込み1万2870円也。
特1号を実際に手に取ると、その厚みと糸の密度の高さにため息が出る。なるほど、力自慢の大男がつかんでも、びくともしないわけだ。糸のほつれも皆無。これは端から端まで太い糸がしっかりと往復する、シャトル式織機ならではの仕上がりだ。
三福商事がある東京都墨田区は相撲部屋が多く、白と黒のまわしを干す光景が見られる。コインランドリーには「まわしの洗濯禁止」の貼り紙も。強靭な帆布。洗うのが大変なのはわかりますが、横着してはいけません。