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現地タクシー運転手の嘆き「チケットは高い。俺たちは観に行けない」 カタールW杯のスタジアム周辺を歩いて気づかされた“厳しい現実”
posted2022/05/16 06:00
text by
豊福晋Shin Toyofuku
photograph by
Shin Toyofuku
ワールドカップを半年後に控えたカタールの首都ドーハを歩いた。4月はラマダン中ということもあり、町の中心部は静かだった。普段は賑わっている市場、スーク・ワキーフも人影は少なく、日中は飲食店も閉まっている。ワールドカップのロゴは目にするものの、街角にサッカーの空気は流れていない。
唯一ワールドカップの息吹を感じられたのがスタジアムだ。国が名誉と財をかけて呼び寄せた同国史上最大のイベントだけあり、各スタジアムには最新設備が整えられている。決勝の舞台ルサイル・スタジアムは砂漠の中に横たわるオブジェだ。
カラフルなコンテナを集めたスタジアム974は外から見ると洒落た工事現場のようだった。4万人収容の同スタジアムは大会後に解体予定。並んだコンテナを見ていると、この中でネイマールやクリスティアーノ・ロナウドがプレーするとは思えない独特の雰囲気を醸し出していた。
スタジアムに連れて行ってくれたインド系のタクシー運転手がつぶやいた。
「もちろん大会がこの国で開催されることは嬉しい。でもあんまり実感はないな。チケットも高いし、俺たちは試合を観には行けないだろう」
豪華なスタジアムの裏で…
つまり大会の客席を埋めるのは海外からの観戦客と裕福なカタール人になる。この国を訪れる度に実感するのがカタール人の少なさだ。地元のカタール人は人口280万人の10%ほどに過ぎず、「国民」の大半はインドにネパール、バングラデシュからの出稼ぎ労働者だ。
英ガーディアン紙によると、現在のカタールにおけるバングラデシュ人労働者の月給は約275ドルだという。ほとんどの移民は違法ブローカーに大金を支払い、職を斡旋してもらっている。ブローカーの斡旋料は4000ドルに上ることもある。
FIFAのインファンティーノ会長は「過去最高の大会になる」と豪語する。ワールドカップ抽選会のレッドカーペットの上を、各国の要人が優雅に歩いていた。
一方、華やかな抽選会場の壁の向こう側、町全体が工事現場と化したドーハの至るところで、埃まみれになって働く移民がいた。彼らがワールドカップを生で見ることはないだろう。豪華なスタジアムと湾岸諸国の現実を見て、どこか複雑な気分にさせられた。