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「箱根駅伝だけを目指していると、目標を見失う」 大八木弘明監督が明かす“過熱する箱根人気”への本音…なぜ駒澤大OBは卒業後も活躍できる? 

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加藤康博

加藤康博Yasuhiro Kato

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photograph byShigeki Yamamoto

posted2022/05/04 17:01

「箱根駅伝だけを目指していると、目標を見失う」 大八木弘明監督が明かす“過熱する箱根人気”への本音…なぜ駒澤大OBは卒業後も活躍できる?<Number Web> photograph by Shigeki Yamamoto

名門・駒澤大学を率いる大八木弘明監督。箱根駅伝への率直な思いを独占インタビューで明かした

「箱根だけを目指していると、卒業後に目標を見失う」

 田澤もすでに国内トップを争う力を持っているが、スピード練習のメニューは入学以来、設定タイムも走る本数も抑え目にしており、まだやらせていない練習が多くあるという。それは先の言葉が理由であり、かつ体の成長に合わせて段階的に強化をしてこそ、高いレベルまでいけるとの信念があるからに他ならない。本領を発揮するのは卒業後でいい。4年間ではたどり着けない頂に向け、今やるべきことをやるという考えを持つ。

 この伸びしろを残すという考えにも関係するが、目標設定も大学4年間だけに留めないように指導していると力を込める。冒頭の言葉にあった「箱根駅伝だけで終わってはいけない」という言葉も口癖のようなものだ。

「皆が箱根を走りたくて大学に来ますし、チームでも最大の目標です。勝てる勝負であればぜひ勝ちたいと思っています。ただ同時に箱根の先にはもっと高い山があるし、世界にはさらに高い山があるということも言い続ける必要があります。そもそも実業団に進んで結果を残せないと、競技が続けられないですし、そこで結果を残してこそ評価もされる。箱根だけを目標にしていると、その反動で卒業後に目標を見失ってしまうケースもあるようなので」

“卒業後を見据えた指導”とは?

 目標を立てることはすなわち計画を立てることでもある。別大マラソンを制した西山は大学時代、箱根でも活躍していたものの、その舞台では決してスペシャルな存在ではなく、どちらかというとトラックタイプのスピードランナーだった。しかし計画的に距離を伸ばし、実業団5年目で初マラソンを踏み、世界選手権マラソン代表の座を手にしている。

 そうした計画力を育成するため、大学でも3年、4年になると卒業後を見据え、選手の意見をより重視する練習スタイルへと変えていく。

「練習メニューは基本、こちらが提示しますが、それに対し、“プラスαでこんなことをやりたい”とか、“疲労を考えれば、今日はもう少し抑えたい”など、選手が自分の意見を言ってくるのが理想です。自分の体のことは自分しかわからないですからね。目標から逆算し、何をしていくべきかを自分で考える力をつけないと、卒業後は誰も教えてくれませんから」

 事実、練習では選手自身の言葉を促し、それに耳を傾けながらその日のメニューを決めている姿をよく見かける。最終的には自分で自分の強化プランを考えられる選手になるために。選手たちは大学での競技生活に打ち込みながら、すでに巣立ちへの準備を始めているのだ。

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