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井上尚弥が28歳に 名プロモーターも驚いた「一見すると韓国のポップシンガー」な好青年が“怪物”に豹変する瞬間
posted2021/04/10 06:01
text by
杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph by
Getty Images
昨年10月31日。井上尚弥のラスベガス・デビュー戦が終わった直後、リングサイドの人々の興奮ぶりが今でも忘れられない。
ジェイソン・マロニー(オーストラリア)を相手にしたWBA、IBF世界バンタム級王座の防衛戦で、井上は2度のダウンを奪って圧勝。KO勝利が決まった瞬間、筆者のすぐ目の前に座った米最大手プロモーター、トップランク社の重鎮たちの中から、「A special fighter……(特別な選手だ)」といった言葉が漏れてきたのだ。
「すべてを併せ持った選手は見たことがない」
新型コロナウイルスの影響で無観客興行になったため、KO直後のアリーナは大歓声に包まれたわけではない。それでも“モンスター”の強さを目の当たりにして、トップランクの重役たちは驚きを隠さなかった。中でも最もエキサイトしていたのは、89歳の大ベテランプロモーター、ボブ・アラムだった。
「こんな選手を見るのは初めてだ! すごいパンチャーや良いフットワークを持っているボクサーにはお目にかかってきたが、すべてを併せ持った選手は見たことがない。マロニーもバンタム級ではトップクラスの選手だが、それでも敵わなかった。マロニーが何かをやろうとしても、井上には常に答えがあった。とてつもないパフォーマンス。彼を初めて見たものたちはみんな驚いているよ。」
トップランクといえばこのアラムの存在感が目立つが、実は名門会社の底力は首脳陣の層の厚さにある。トッド・ドゥブーフ社長、カール・モレッティ副社長に加え、ブルース・トランプラー、ブラッド・グッドマンのマッチメイカー・デュオも強力。アラムのキャリア晩年の功績は、ライバルだったドン・キングの独占的なやり方とは一線を画し、後進をしっかりと育てたことだった。