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こんな時だからこそ思い出す
1995年の野茂英雄と野球の力。
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph byKoji Asakura
posted2020/04/06 07:00
メジャー1年目で13勝6敗、防御率2.54の戦績を残した1995年の野茂英雄。最多奪三振(236)とリーグ最多の3完封も記録した。
いまだに球宴の先発は野茂だけ。
この年、野茂は13勝6敗、防御率2.54で新人王。144試合制の中でリーグトップタイの3完封と236奪三振は特筆すべき数字でありオールスターの先発投手にも選ばれた。あれから25年。未だに日本人投手で球宴の先発投手を務めたのは彼だけだ。
当時、日本では世界最高峰のMLBで野茂がメジャーの一流どころをなぎ倒す姿にカタルシスを感じた方も多かった。だが、米国に住む日系人にとっては、それ以上の思いがあった。
スタジアムで聞いた「俺は日本人だ!」。
7月30日に本拠地ドジャースタジアムで行われたシンシナティ・レッズ戦は今でも忘れらない取材現場のひとつだ。
この試合で野茂は8回を5安打、1失点で抑えて8勝目を挙げた。2ストライクと追い込むたびに超満員に膨れ上がった53058人の大観衆が三振をおねだりし、彼は11個もの三振を奪った。筆者はファンのリアクションを取材しようと途中から観客席に向かったのだが、そこで涙ながらに「NOMO!」と声援を送り続ける日系人ファンに出会った。
「米国に渡り、長くこのロサンゼルスに住んでいます。日本食レストランを経営していますが、私たち日本人にとって野茂さんの頑張りほど嬉しいことはないんです」と、切り出した初老の男性はこう続けた。
「米国は移民を受け入れてくれて、我々も商売が出来ることは有り難い限りですが、歴然とした差別が存在しているのも事実です。いつも周囲の目を気にしながら、なるべく目立たないように生きて来ましたが、今は違います。『俺は日本人だ!』と初めて声を大にして言えるようになったんです。
野茂さんが日本人として米国で頑張ってくれたおかげなんです。私同様の思いを持つ日系人はたくさんいると思いますよ」
異国に渡り、異文化の中で生活してきた方の苦労、思いを初めて知り涙した。と同時に、野球の枠を超えて野茂英雄がもたらしたものの大きさと野球が持つ底知れぬ力を実感した瞬間となった。