野球のぼせもんBACK NUMBER
サファテが348日ぶりの帰還。
左脚の使い方に見える復調の気配。
posted2020/03/05 11:40
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph by
Kyodo News
神と崇められた右腕がマウンドに帰ってきた。
3月3日、福岡PayPayドーム。スワローズとのオープン戦の6回表開始前に、その瞬間は訪れた。
「サファテ、背番号58」
無観客のドームにアナウンスが響き渡る。本来ならば沸き立つはずの大歓声は聞こえないし、お馴染みのセンス抜群の登場曲もない。ただ、一塁側のダグアウトを出てマウンドに向かう“守護神”へ、ありったけの力を込めて背中を押すチームメイトの声はテレビやインターネットの中継を見ていたファンにも十分に伝わったはずだ。
デニス・サファテにとって昨年3月21日のイーグルスとのオープン戦以来となる、348日ぶりの実戦登板だった。
「長い道のりだった。いろんな感情が入り混じったよ。決してここまで来るのは簡単ではなかったからね。4、5カ月前は違うユニフォームを着ている選手に対してマウンドから投げているなんて想像もできなかったから」
正直物足りない数字ではあった。
注目の第1球は高めに少し抜けて吹き上がるようなボール球のストレートだった。球速は143キロを計測。2球目も直球が少し抜けて右打者の内角に外れた。こちらは141キロだった。
全盛期のサファテからすれば、正直物足りない数値だ。
'17年にNPB歴代最高の54セーブを記録して、日本シリーズMVPや外国人選手初の正力松太郎賞に輝いた当時は150キロ台中盤を連発するのが当たり前だった。
最初の打者だった西田明央は142キロでショートフライ。2人目の西浦直亨には143キロ直球をセンター前にヒットを打たれた。だが、次打者の中村悠平の打席の途中で、女房役の栗原陵矢との共同作業により二盗をきっちり阻止。
最後は中村をこの日最速だった144キロでセンターフライに仕留めた。1回1安打無失点の再始動だった。