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セーブ失敗の新人をなぜ再び9回に?
工藤監督がドラ1甲斐野を信じた訳。
posted2019/07/02 11:40
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph by
Kyodo News
工藤公康監督が信頼のタクトを貫いたのは、6月20日の神宮球場でのスワローズ戦だった。
ホークスが6-5と1点リードで迎えた9回裏、抑えのマウンドに送り出されたのはルーキーの甲斐野央だった。
「緊張したけど、前回の反省を生かして絶対にゼロで帰ってくるという気持ちでした」
2日前の18日、同じスワローズ戦でプロの洗礼を浴びたばかりだった。
ホークスの守護神といえば、本来は昨季37セーブでタイトルを獲得した森唯斗だ。今季も19セーブを記録していたのだが、右の広背筋と大円筋の部分損傷による右上腕部などの違和感を訴えて6月16日に登録を抹消されてリハビリを続けている。
代役の抑えについて工藤監督は「特に誰と決めるのではなく、相性の良し悪しや打順などそういうところを見ながら」と説明していた。
慣れ親しんだ神宮での守護神起用。
そして迎えたスワローズとのカード初戦(18日)。6-3と3点リードの9回裏、工藤監督の選んだ“守護神”は甲斐野だったのだ。ちょっとした親心のようなものがあったのかもしれない。東洋大学からプロ入りした甲斐野にとって、神宮球場は東都大学リーグで慣れ親しんだ舞台だ。
上茶谷大河(ベイスターズ)や梅津晃大(ドラゴンズ)と投手3枚看板を結成し、野手には今季交流戦で史上初のルーキー首位打者に輝いた中川圭太(バファローズ)もいて、リーグ3連覇の偉業も果たしたことのある思い出深いマウンドである。
しかし、当の甲斐野には、そんな感慨に浸る余裕などまるでなかった。
「大学でも抑えをやっていましたが、プロの緊張感や雰囲気は違っていました。慣れ親しんだ神宮球場だと周りにも言われましたが、まったく違う神宮に感じていました」